米金融政策と物価安定への復帰

というNBER論文(原題は「US Monetary Policy and the Return to Price Stability」)を元FRB副議長のリチャード・クラリダ(Richard H. Clarida、現コロンビア大)が上げている
以下はその要旨。

This paper assesses the proximate causes of the post pandemic surge in US inflation, the Federal Reserve's real time reaction to and interpretation of incoming data in 2021, and the pivot to raising rates and shrinking the balance sheet that commenced in 2022 and continues in 2023. Particular attention is devoted to the role, if any, that Fed's August 2020 revisions to its monetary policy framework may have played in delaying lift - off relative to counterfactuals informed by simple policy rules, including a framework - consistent "shortfalls" policy rule featured in its semi - annual Monetary Policy Reports.
(拙訳)
本稿は、コロナ禍後の米インフレの高騰のおおよその原因、2021年において次々と入ってくるデータに対するFRBのリアルタイムの反応と解釈、2022年に始まり2023年も継続している利上げとバランスシート縮小へのFRBの方向転換、を評価する。単純な政策ルールを基にした場合の反実仮想に比べて利上げが遅れたことに、2020年8月のFRBの金融政策の枠組み修正が果たした役割があったとすれば、ここではそれが特に関心の的になっている。その単純な政策ルールとは、FRBが半年ごとに発行している金融政策報告で取り上げられている、枠組みと整合的な「不足」政策ルール*1などである。

直近の金融政策報告に掲載されている単純な政策ルールと実際のFFレートの推移の比較グラフは以下の通り。

*1:大和総研の解説レポート「FOMC 新たな金融政策の枠組みを公表 2020年08月28日 | 大和総研 | 矢作 大祐」によると、
FOMC の金融政策の策定に際しては、「(前略)FOMC の政策水準は、不確実で修正の対象となることを認識した上で、雇用の最大水準からの不足に対する評価に基づかなければならない。」という表現に修正された。従来の「(前略)雇用の最大化に関する評価に基づかなければならない。」と比べて、雇用環境における解決すべき様々な課題に重点を置いた上で、金融政策を検討することが示されている”
とのことである。当該の2020年8月27日の政策修正について記述した直後の2021年2月の金融政策報告はこちら