FRBの“内紛”

先月の12日に、バーナンキエコノミストのブログで取り上げられるような発言をしたらどうか、と書いた。すると、その直後に実際に彼がロンドンでスピーチをして、それが各所(cf.ここここ)で取り上げられて少し驚いた。
しかし、それでバーナンキ金融政策への理解が深まって批判の声がやんだかというと、残念ながらそうでもないようだ。たとえば、night_in_tunisiaさんが紹介したnaked capitalismのイブ・スミスの1/20エントリでは、FRBは「金槌しか持っていないと、問題がすべて釘に見える」症候群に罹っているのではないか、と批判されている。


だが、もっと深刻だと思われるのは、FRB内部、それも地区連銀総裁レベルから、バーナンキ政策への不協和音が出始めていることだろう。先の12日エントリでは、1月初めのAEAで表明されたジェームズ・ブラード・セントルイス連銀総裁のバーナンキ政策への懸念を紹介したが、1月末日には、直前のFOMCで唯一反対票を投じたラッカー・リッチモンド連銀総裁が、「特定の信用市場を支援することは最善の戦略ではなく、政策の独立性を損なう恐れがある」との見解を示した、とのことだ。


また、先月13日のロンドン講演の直後には、「FRB断層線が現れた」と題したMarketWatch記事で、チャールズ・プロッサー・フィラデルフィア連銀総裁のバーナンキへの異論が取り上げられた。それによると、彼は、「FRBの計画全体の影響はFRBのバランスシートの全体サイズで判断されるべきではない」という(イエレンや)バーナンキの見解に反し、FRBのバランスシートの額は重要な指標である、と述べたという。
正直言って小生にはこうした異論がFRBでどの程度許容されており、どこまで重要視すべきものなのかいまひとつピンと来ていないが、記事ではそのタイミングの悪さを指摘している。

While the Fed chairman has made it a practice to run a more democratic central bank, the disagreements come at a crucial time when the Fed is striving to appear on top of the current financial market crisis and steep recession.


(拙訳)確かにFRB議長はより民主的な中央銀行にすることをこれまで実践してきたが、こうした異論は、FRBが現在の金融市場の危機と急激な景気後退という事態を掌握しているように見せようと必死に努力している重大な時機に現れた。


また、同記事では、ウイリアム・プール・前セントルイス連銀議長のより過激な批判も紹介している。

In the Soviet Union and Eastern Europe during the Cold War era, economies were inefficient because they had a soft-budget constraint. If a firm got into trouble, the banking system would give them more money, Poole said.
The current situation at the Fed seems eerily similar, he said.


(拙訳)冷戦時代のソ連や東欧は、ソフトな財政制約により、経済が非効率になった。企業に問題が生じれば、銀行システムがその企業により多くの金を渡した、とプールは言う。
FRBの現在の状況は不気味なほど似ている、と彼は言う。

このブログでは、このプールの発言は事実上バーナンキ共産主義者呼ばわりしたようなものだ、と評している。


また、こちらのブログでは、こうしたFRBの内紛をキャットファイトに喩えている(写真が可愛い)。ちなみにこの記事によると、ブルームバーグに続いてフォックスもFRBの資料開示を求めて訴えを起こしたそうだ。


今のところ、こうした不協和音は、言葉上の不一致とFOMCでの少数派意見に留まっていて、FRBの政策に大きなきしみを生じさせるまでには至っていないようだが、今後の行方が気になるところではある。