クルーグマン論文の不備?

okemosさんがクルーグマンの恒星系間貿易理論を訳され、大変な人気を集めている。小生も拝読したが、確かに面白い。だが同時に、第一、第二の基本定理のどちらもちょっと違うのではないか、という気がした。ネタニマジレスカコワルイ、と言われそうだが、本人も「バカバカしい対象についての真剣な分析」と冒頭で宣言しているので、敢えて以下に異論を書き連ねてみる。

恒星系間貿易の第二基本定理の不備

惑星内貿易でも成立していない

クルーグマンは債券投資と貿易の裁定を考え、そこから債券利子率がトランターと地球で平準化するとしている。しかし、今の地球上の貿易において、そうした現象は見られない。恒星系間貿易だけでそうした平準化が成立する理由は無い。

リスクプレミアムを考慮していない

債券投資と貿易の裁定を考えることの最大の問題点は、リスクプレミアムを考慮していないことにある。株式会社の起源がオランダ東インド会社であったことから推測されるように、こうしたリスクの高い事業は株式会社方式で実施されることになろう。通常のファイナンス理論から明らかな通り、その会社の株式の期待収益率にはリスクプレミアムが含まれることになり、債券利子率との裁定は成立しない。

為替レートを考慮していない

クルーグマンは、トランターから地球に持ち込んだ財の売り上げを、すべて地球の財の購入に充てるとした。これは物々交換の延長であり、取引がその形態に限られれば、経常収支もゼロである。
しかし、売り上げの一部を相手方の資本市場に投資しようとか、あるいは逆に、今後の需要増大を見込んで、少しレバレッジを効かせて相手方の財を多めに買い付ける、といった形の取引も予想される。すると、経常収支はもはやゼロではなくなり、対応して資本収支もゼロではなくなる。そうなると、為替レートというものを考える必要が出てくる。
つまり、貿易によって生じるのは金利の収束ではなく、為替なのである。そして、為替レートは、地球とトランターの金利差を吸収する役割を果たすことになろう(いわゆる金利平価説)。


恒星系間貿易の第一基本定理の不備

第二基本定理に比べ、第一基本定理には問題が無いように見える。しかし、宇宙都市シリーズを思い浮かべるまでも無く、貿易を行なう宇宙船が一つの自立した国家になっている可能性は容易に想像できる。その場合、利子率は当然、その宇宙船の時間体系で計測されるべきである。ただ、その利子率は、トランターのものでも地球のものでもなく、宇宙船内のものになるので、特に矛盾は生じない。
結局、第一基本定理は次のように書き換えるべきだろう。

貿易が二つの惑星間で行われる場合、財についての利子費用は、その利子が観測される資本市場が属する惑星もしくは宇宙船の慣性系内の時計によって測られた時間で計算されるべきである。


宇宙船国家と惑星の資本取引の裁定を考えると、宇宙船国家の利子率はジンバブエのインフレ率並みの物凄い数字になるだろう。つまり、宇宙船内で(○○惑星との貿易に関する)商権や(××惑星に投資した)証券が取引される場合、分秒単位で価格が2倍にも3倍にもなるわけだ。