関税、製造業の雇用、および供給網

というNBER論文が上がっているungated版)。原題は「Tariffs, Manufacturing Employment, and Supply Chains」で、著者はJoseph B. Steinbergトロント大)*1
以下はその要旨。

I use a dynamic general-equilibrium model with supply-chain adjustment frictions to study the effects of tariffs on manufacturing employment. The model has four distinct manufacturing sectors: upstream goods with high trade elasticities (“oil”); upstream goods with low trade elasticities (“steel”); downstream goods with high trade elasticities (“toys”); and downstream goods with low trade elasticities (“cars”). I find that tariffs can increase overall manufacturing employment in the long run, but are likely to reduce it in the short run, and cause more reallocation of workers across these individual sectors than overall employment growth.
(拙訳)
私は供給網の調整摩擦を備えた動学的一般均衡モデルを用いて、関税が製造業の雇用に与える影響を調べた。モデルには4つの独立した製造業部門がある。貿易の弾力性の高い上流部門の財(「原油」)、貿易の弾力性の低い上流部門の財(「鉄鋼」)、貿易の弾力性の高い下流部門の財(「玩具」)、貿易の弾力性の低い下流部門の財(「自動車」)、である。関税は製造業全体の雇用を長期的に増やし得るが、短期的には減らす可能性が高く、全体的な雇用の伸びよりもそれら個々の部門間で生じる労働者の再配分の方が多いことを私は見い出した*2

結論部では、全輸入財に対する広範な関税、もしくは「玩具」部門を対象とした関税は財部門全体の雇用を長期的に押し上げるが、他のタイプの関税、特に「自動車」を対象とした関税は減らす、と注記している。また、短期的には雇用は急速に減少し、供給網調整により最終的に回復する前には長い年月に亘って落ち込むだろう、とも述べている。さらに、製造業を伸ばす関税は経済全体を縮小させる可能性が高い、というトレードオフにも警鐘を鳴らしている。そのほか、今回の分析は関税が恒久的であることを前提にしている、とも断っており、第1期トランプ政権では関税は数年以上続くとは思われていなかったこと*3、不確実性の高い関税は製造業部門への投資を増やすよりもむしろ減らす可能性が高いこと*4を指摘している。

*1:cf. 中国ショックのセカンドインパクトに備えよ - himaginary’s diary

*2:結論部では、「most tariffs would move workers between individual goods sectors more than it would pull workers to them on the whole: reallocation, rather than reindustrialization」と表現している。

*3:その点についてはSteinbergも共著者である貿易戦争と平和:2015-2050年の米中貿易・関税リスク - himaginary’s diaryで紹介した論文を参照している。

*4:その点についてはThe economic effects of trade policy uncertainty - ScienceDirectを参照している。