マクロ経済危機の労働市場解剖学

というNBER論文が上がっているungated版へのリンクがある著者の一人のページ)。原題は「Labor Market Anatomy of a Macroeconomic Crisis」で、著者はKevin Donovan(イェール大)、Will Jianyu Lu(チリ銀行)、Joseph H. Pedtke(クレムソン大)、Todd Schoellman(ミネアポリス連銀)。
以下はその要旨。

This paper uses two large datasets built from quarterly labor force surveys to provide a global perspective on labor market downturns. The distribution of the severity and duration of labor market downturns is strongly right skewed. The longest and most severe downturns are associated with crises, particularly financial crises, sudden stops, and house price busts. Manufacturing and construction are key sectors for propagation, as they account for more than half of the total decline in employment. Labor market downturns fall most on young and less-educated workers, who are less able to self-insure against idiosyncratic earnings risk.
(拙訳)
本稿は、四半期の労働力調査から組み立てられた2つの大規模なデータセットを用いて、労働市場の低迷の世界的な観点を提供する。労働市場の低迷の深刻さと長さの分布は、大きく右に歪んでいる。最も長く深刻な低迷は、危機、とりわけ金融危機、サドンストップ、および住宅バブルの破裂と結び付いている。製造業と建設業は、雇用の総減少の半分以上を占めるため、伝播の主要な部門である。労働市場の低迷は、固有の所得リスクへの自己保障能力が低い、若年労働者と低学歴の労働者に最も重くのしかかる。

以下は分布の歪みを示した図。

大部分は短期の緩やかな景気後退であり、ほぼ半分が0-2%ポイントの失業率の上昇で済み、2/3が6四半期以内に回復が始まる。しかし分布の裾は長く、最も深刻な1割の景気後退では、失業率は5-19%ポイント上昇し、失業率が下がり始めるまでに16-33四半期を要する、とのことである。ただし、2005年以前の米国(赤棒)ではそうした長い裾がみられなかった、との由。米国も2005年以降にはより深刻な景気後退があったが、それでも最も深刻な1割には達しないという。