というNBER論文が上がっている(H/T タイラー・コーエン;ungated版へのリンクがある著者の一人のページ)。原題は「Exchange Rate Models are Better than You Think, and Why They Didn't Work in the Old Days」で、著者はCharles Engel(ウィスコンシン大学マディソン校)、Steve P.Y. Wu(UCサンディエゴ)。
以下は実際のモデルの推計結果。
対象はオーストラリアドル、カナダドル、ユーロ、英ポンド、ニュージーランドドル、ノルウェークローネ、スウェーデンクローナの対ドルレート。
説明変数は、実質金利、インフレ、対外債務の変化(米国の貿易収支で代替*1)、グローバルリスク指標、米国債のコンビニエンスイールド(世界の流動性への需要を反映)、実質為替のラグ。
日本円とスイスフランはモデルの当てはまりが悪かったとのことで、論文ではその理由を以下のように推察している。
- 両国ともデフレの期間が長かった
- 両国との大規模な不胎化介入を行った
- 両国とも米国と同様に「セーフヘイブン」通貨と見做された
これらの特性は標準的なモデルでは上手く取り扱えないとの由。
以下はモデル推計値と実際の為替相場の比較グラフ。
この当てはまりの良さについて論文では以下の点を強調している。
- 四半期のように説明できない短期の変動を平滑化したモデルではなく、あくまでも月次ベースで推計したモデルを使っている
- 為替相場と説明変数の高い継続性により水準での回帰は見せかけの高い相関をもたらし得るが、ここでは水準ではなく月次変化で推計している
以下は20年のローリングウィンドウ推計でF値が最近改善したことを示す図*2。
論文の別の図では各説明変数のt値も同様に最近改善したことが示されている。
以前はモデルの当てはまりが悪かったことはMeese and Rogoff (1983)*3やCheung et al. (2005)*4のような先行研究でも示されているが、論文では最近の改善の原因を、各国でのインフレ目標の導入によりテイラー原理が満たされるようになったという金融レジームの変化に求めている。また、金融市場が注目する変数は時とともに移ろう、というBacchetta and van Wincoop (2004)*5のscapegoatモデルでは、サンスポットないし自己実現的予想によりテイラー原理が満たされなくなるが、著者たちはそうした自己実現的予想の影響が減じたことが、最近観測された為替の変動性の低下につながり、モデルの当てはまりの改善にもつながった、と主張している。
*1:本来は経常収支が望ましいが、経常収支は月次で公表されていないので貿易収支を使用したとの由。
*2:ユーロはドイツマルクで遡及されている。
*3:Exchange Rate Models of the Seventies: Do They Fit Out of Sample?。何が為替を動かすのか? - himaginary’s diaryで紹介した論文でもパズルの一つとして参照している。
*4:Exchange Rate Models of the Nineties: Are Any Fit to Survive?。