地球温暖化は世界成長をどの程度冷やすのか?

というNBER論文が上がっている(H/T タイラー・コーエンungated版へのリンクがある著者の一人のページ)。原題は「How Much Will Global Warming Cool Global Growth?」で、著者はIshan B. Nath(サンフランシスコ連銀)、Valerie A. Ramey(スタンフォード大)、Peter J. Klenow(同)。
以下はungated版の導入部の一節。

Finally, we use the empirical impulse response functions to project the impact of global warming on individual country economic growth through 2099. In particular, we use the ratio of the cumulative response of income to the cumulative response of temperature over a 10-year horizon to represent the long-run effect of a given increment of temperature on GDP. Importantly, we allow the effects to depend on a country’s initial temperature according to the nonlinear estimates, which imply that hot countries will be harmed by warming and cold countries helped.
Our projections suggest that 3.7C of warming could reduce global GDP by 7-12% in 2099 relative to a scenario with no warming. These damage estimates are three to five times larger than estimates that assume level effects from temperature change with no medium-run growth effects, and two to four times smaller than projections in which the growth effects are permanent. Deviations from previous projections are especially sharp in initially hot and cold countries. For Sub-Saharan Africa, our projections imply that warming reduces output by 21%. In contrast, estimates that assume only a level effect of temperature would suggest a 5% decline in this region, and those that assume a permanent growth effect would suggest an 88% reduction by 2099. Conversely, in colder Europe, our estimates suggest warming will increase GDP by about 0.6%, whereas a permanent growth-effect projection would imply a near doubling of income.
(拙訳)
最後に、我々は実証的なインパルス応答関数を用いて、地球温暖化が2099年までの各国の経済成長に与える影響を予測した。具体的には、10年の期間における累積的な気温の反応に対する累積的な所得の反応の比率を、所与の気温上昇がGDPに与える長期的な効果を表すものとして用いた。重要なのは、非線形の推計によって各国の当初の気温に効果が依存するのを許容したことである。このことは、暑い国は温暖化によって損害を受け、寒い国は助かることを意味する。
我々の予測は、温暖化が無いシナリオに比べて、3.7度の温暖化は2099年の世界のGDPを7-12%減らすことを示している。この損失推計は、中期的な成長効果が無い気温変化の水準効果を仮定する推計より3から5倍大きく、成長効果が恒久的だとする予測の1/2から1/4である。従前の推計との乖離は、当初暑い国と寒い国で特に大きい。サハラ以南のアフリカでは、我々の予測では生産が21%減少する。一方、気温の水準効果のみ仮定する推計は同地域の減少が5%であるとしており、恒久的な成長効果を仮定する推計では2099年に88%減少するとしている。逆に寒冷な欧州では、我々の推計はGDPが約0.6%増えるとする一方、恒久的な成長効果の予測では所得がほぼ倍増するとしている。

この前段の説明によると、平均気温が25度の暑い国では、予期しない1度の気温上昇はショック開始年にGDPを1%ポイント下げ、5年後にその効果は少し大きくなるという。寒い国ではその逆のパターンとなるが、効果の大きさは暑い国ほどではないという。平均気温の至高点/至福点(bliss point)*1はおよそ13度で、世界人口の第10分位がその気温に属するとの由。技術革新の先導国の大半がその気温なので、温暖化はフロンティアTFP成長率にあまり影響しない、と論文では述べている。
また、気温ショック自体にも持続効果があり、その効果の大きさも国の平均気温によって変わってくるという。暑い国ではショック翌年に約4割、5年後の2割が残るとの由。従って過去の気温ショックは、年固定効果をコントロールしたとしても、一時的要因と持続的要因の混合となり、持続効果は年固定効果を入れないと大きくなる。モデルではその点も考慮する必要があるとの由。

以下は3つの手法による今世紀末の世界のGDPの変化を示した図。

以下はインドとスウェーデンについて各手法のGDPの時系列変化を示した図。

以下は各地域の今世紀末のGDPの変化を示した数表。

成長率変化の累積的な効果を織り込まない水準効果(Level Effects)ではGDPの変化は限定的だが、成長率変化が恒久的だとすると(Permanent Growth Effects)GDPの変化は極端に大きくなる。著者たちの手法では、成長率変化は持続的だが恒久的でないとしており(Persistent Growth Effects)、変化は水準効果よりも大きく恒久成長効果よりも小さくなる。

実証研究によると、GDP水準は国によって大きく違うが、技術進歩の波及効果によって成長率は国によってそれほど乖離することはない。実際、富裕国のTFPは非OECD諸国のTFP成長の有意な割合を説明する。著者たちの手法はそうした事実を反映しているという。表では、年固定効果を課した結果のほか、米国のTFPでコントロールした結果も示している。