コロナ禍後のインフレ高騰期における値引きとチープフレーション

というNBER論文が上がっているungated版)。原題は「Price Discounts and Cheapflation During the Post-Pandemic Inflation Surge」で、著者はAlberto Cavallo(ハーバード大)、Oleksiy Kryvtsov(カナダ銀行)。
以下はその要旨。

We study how within-store price variation changes with inflation, and whether households exploit it to attenuate the inflation burden. We use micro price data for food products sold by 91 large multi-channel retailers in ten countries between 2018 and 2024. Measuring unit prices within narrowly defined product categories, we analyze two key sources of variation in prices within a store: temporary price discounts and differences across similar products. Price changes associated with discounts grew at a much lower average rate than regular prices, helping to mitigate the inflation burden. By contrast, cheapflation—a faster rise in prices of cheaper goods relative to prices of more expensive varieties of the same good—exacerbated it. Using Canadian Homescan Panel Data, we estimate that spending on discounts reduced the change in the average unit price by 4.1 percentage points, but expenditure switching to cheaper brands raised it by 2.8 percentage points.
(拙訳)
我々は、店内の価格のバラツキがインフレでどのように変化したか、および、家計がそれを利用してインフレ負担を軽減したかどうか、を調べた。我々は、2018年から2024年までの10か国*1における複数の販売経路を持つ91の大手小売業者が販売する食料品のミクロの価格データを用いた。狭く定義された製品カテゴリにおける単価を測定して我々は、店内における価格のバラツキの2つの主要な原因を分析した。一時的な値引きと、類似の商品における差である。値引き関連の価格変化は、低下よりもかなり低い平均伸び率で伸び、インフレ負担を軽減するのに寄与した*2。一方、チープフレーション――同じ商品の高価格品よりも低価格品の方が価格上昇が大きいこと*3――は、インフレ負担を悪化させた。カナダのホームスキャンパネルデータ*4を用いて我々は、値引き品への支出が平均単価を4.1%ポイント低下させた半面、安価なブランドへの切り替えは平均単価を2.8%ポイント上昇させたと推計した。

*1:アルゼンチン、ブラジル、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペイン、英国、米国。

*2:2020年1月から2024年1月まで、食品の通常価格は、欧米では15-23%、ブラジルとアルゼンチンではそれぞれ39%と228%上昇した一方で、セールス期間中の月次のインフレは、アルゼンチンを除き、合計しても一桁の伸びにしかならなかったとの由(アルゼンチンは17%)。

*3:2020年1月からの累積で6-14%ポイント高く、1.3-1.9倍になったとのこと。論文ではその原因として、安価な価格帯の品目では供給網がコストに主に反映されること(高価格品ではブランドや研究開発)、そもそもの売り手のマージンのバッファが少ないこと、高インフレ期には相対的に需要が多くなること、を挙げている。

*4:cf. Homescan Canada - NIQ