ポートフォリオのフローと家計のポートフォリオ

前回エントリで紹介した論文と内容と著者が共通している表題のNBER論文が上がっているungated(SSRN)版)。原題は「Portfolio Flows and Household Portfolios」で、著者はDaniel Marcel te Kaat(フローニンゲン大)、Chang Ma(復旦大)、Alessandro Rebucci(ジョンズ・ホプキンズ大)。
以下はその要旨。

In this paper, we show that cross-border portfolio flows around the peak of the European Crisis induced households to rebalance their portfolios toward housing. Estimating difference-in-differences regressions around Draghi's “Whatever It Take” speech in July 2012 with household data from the ECB's Household Finance and Consumption Survey, we find that portfolio inflows induce households with larger ex-ante bond and equity shares to rebalance more strongly toward housing. The effect is not driven by higher pre-treatment access to credit or higher credit growth during the treatment period and is stronger for wealthier and less risk-averse households.
(拙訳)
本稿で我々は、欧州危機のピーク前後の国境を越えたポートフォリオの流れによって、家計が自分のポートフォリオを住宅のウエイトを高める方向にリバランスしたことを示す。我々は、2012年7月のドラギの「なんでもやる」講演の前後の期間においてECBの家計財務・消費調査*1の家計データで差の差回帰を推計し、ポートフォリオ流入が、株債の事前比率が大きかった家計に住宅のウエイトを高める方向へのリバランスを促したことを見い出した。その効果は、対象期間以前の信用へのアクセスが高かったことや、対象期間中の高い信用の伸びによって引き起こされたものではなく、より裕福でリスク回避度の低い家計で強かった。

本文によると、ポートフォリオ流入が大きいと、海外投資家が国内の株債の投資を増やし、両資産の期待収益が下がるため、リバランスを引き起こすとのこと。また、ポートフォリオの流出が小さいと、国内投資家が海外の投資を引き揚げて国内の株債の投資を増やすことにより、同じ効果が生じるとの由。
欧州の周辺国と中核国を比較すると、中核国での効果が大きかったという。欧州危機のピーク時には周辺国の経済改善見通しの方が強かったことから、このことは、同効果が経済の改善見通しによるものではないことを示している、とのことである。では、なぜ中核国で効果が大きかったかというと、前回紹介論文におけるドイツのように、賃貸への税制のインセンティブによるものではないか、と著者たちは推測している。それと関連する話として、周辺国では持ち家比率が高く、賃貸市場が小さいため、投資目的のセカンドハウスにリバランスする余地が限られている、と著者たちは指摘している。そのほか、中核国の家計の株債市場へのエクスポージャーが大きいことも一因だろう、との由。