金融政策には長期的な効果があるか?

という小論がSF連銀のEconomic Letterに上がっている。原題は「Does Monetary Policy Have Long-Run Effects?」で、著者はÒscar Jordà(SF連銀)、Sanjay R. Singh(同)、Alan M. Taylor(UCデービス)。

Monetary policy is often regarded as having only temporary effects on the economy, moderating the expansions and contractions that make up the business cycle. However, it is possible for monetary policy to affect an economy’s long-run trajectory. Analyzing cross-country data for a set of large national economies since 1900 suggests that tight monetary policy can reduce potential output even after a decade. By contrast, loose monetary policy does not appear to raise long-run potential. Such effects may be important for assessing the preferred stance of monetary policy.
(拙訳)
金融政策は、景気循環を作り上げる拡張や収縮を和らげるという一時的な効果しか経済にもたらさないと考えられることが多い。しかし、金融政策が経済の長期的な軌道に影響を与えることはあり得る。1900年以降の大国経済のデータセットにおける各国データを分析すると、緊縮的な金融政策は10年後においても潜在GDPを減らし得ることが示される。対照的に、緩和的な金融政策は長期的な潜在GDPを引き上げるようには見えない。そうした効果は金融政策の望ましいスタンスを評価する上で重要であろう。

ここで説明されている長期的な成長に対する金融政策の効果の非対称性は、小生がここで考察した話を実際のデータで実証したもの、と言えそうである*1。本文では、緊縮的な金融政策で長期的なマイナスの効果が生じるメカニズムの候補として、研究開発費の減少と労働力の毀損を上げている。
以下は小論の図。


図1のパネルAでは1%の想定外の利上げの長期的な効果、パネルBではその要因分解が示されている。パネルBを見ると労働力の影響は12年後には元に戻っている一方、TFPと資本はそれぞれ3%と4%ベースラインを下回っている。小論では、これは、研究開発費がTFP成長を決定する一方で労働需要は安定的とする内生的成長モデルと整合的な結果、としている。TFP成長の低下が一時的としても、その鈍化が累積的に水準の低下として表れる、というわけだ。
図2ではこうした長期的効果の非対称性を示している。
なお、因果関係の問題を解消するため、分析では為替ペッグ国を対象にしたとの由。そうした国の金融政策の変更は国内経済の状況に関係なく実施されるため、結果ではなく原因と考えられるからである。そのため、ここで示された結果は基本的に米国以外のデータを反映しているが、米国について別の手法で分析した結果も同様のものとなったとの由。

*1:ここで紹介したサマーズの議論も参照。