というNBER論文が上がっている。原題は「Why Did Putin Invade Ukraine? A Theory of Degenerate Autocracy」で、著者はGeorgy Egorov(ノースウエスタン大)、Konstantin Sonin(シカゴ大)。
以下はその要旨。
Many, if not most, personalistic dictatorships end up with a disastrous decision such as Hitler’s attack on the Soviet Union, Hirohito’s government launching a war against the United States, or Putin’s invasion of Ukraine in February 2022. Even if the decision is not ultimately fatal for the regime, such as Mao’s Big Leap Forward or the Pol Pot’s collectivization drive, they typically involve both a monumental miscalculation and an institutional environment in which better-informed subordinates have no chance to prevent the decision from being implemented. We offer a dynamic model of non-democratic politics, in which repression and bad decision-making are self-reinforcing. Repressions reduce the threat, yet raise the stakes for the incumbent; with higher stakes, the incumbent puts more emphasis on loyalty than competence. Our theory sheds light on the mechanism of disastrous individual decisions in highly institutionalized authoritarian regimes.
(拙訳)
大半とは言わないまでも多くの個人独裁は、ヒトラーのソ連攻撃、裕仁の政府の対米戦争開始、あるいは2022年2月のプーチンのウクライナ侵攻のように、破滅的な決定を最後に下す。毛の大躍進やポルポトの集産化政策のようにその決定が体制にとって最終的な命取りにならない場合でも、そうした決定は、大いなる誤算、および、より良い情報を保有している部下が決定の実施を妨げる機会を持たない制度的な環境、の両方を伴うのが普通である。我々は、抑圧と悪しき意思決定が自己補強的なものとなる非民主政治の動学モデルを提示する。抑圧は脅威を減じる一方で、現指導者がいざという場合に失うものが大きくなる。そうなると現指導者は能力よりも忠誠心に重きを置くようになる。我々の理論は、非常に制度化された全体主義体制における破滅的な個人の決定のメカニズムについて解明の光を投じる。
シカゴ大の論文紹介サイト(ungated版へのリンクもある)では以下の図が掲げられている。
なお、戦前の日本を天皇の個人独裁と捉えている点で著者たちの認識不足は明らかだが、ゲーム理論を用いて類型化された権力構造のモデルを構築することが主眼の研究なので、著者たちの歴史や実際の政治についての認識の水準は結果とはあまり関係なさそうである。