公平な入学選考を求める学生たちの訴訟が人種選好について明らかにしたこと

ハーバード入試の人種差別を巡る裁判で専門家証人としてデビッド・カードと対決したArcidiaconoが、表題のNBER論文を上げているungated版)。原題は「What the Students for Fair Admissions Cases Reveal About Racial Preferences」で、著者はここで紹介したNBER論文と同じPeter Arcidiacono(デューク大)、Josh Kinsler(ジョージア大)、Tyler Ransom(オクラホマ大)。
以下はその要旨。

Using detailed admissions data made public in the SFFA v. Harvard and SFFA v. UNC cases, we examine how racial preferences for under-represented minorities (URMs) affect their admissions to Harvard and UNC-Chapel Hill. At Harvard, the admit rates for typical African American applicants are on average over four times larger than if they had been treated as white. For typical Hispanic applicants the increase is 2.4 times. At UNC, preferences vary substantially by whether the applicant is in-state or out-of-state. For in-state applicants, racial preferences result in an over 70% increase in the African American admit rate. For out-of-state applicants, the increase is more than tenfold. Both universities provide larger racial preferences to URMs from higher socioeconomic backgrounds.
(拙訳)
SFFA対ハーバードとSFFA対ノースカロライナ大の訴訟で公開された詳細な入学データを用いて我々は、過小評価グループ*1のマイノリティ(URMs)に対する人種選好が、ハーバードとノースカロライナ大学チャペルヒル校への入学にどのように影響しているかを調べた。ハーバードでは、標準的なアフリカ系米国人の応募者の入学率は、白人として扱われた場合の平均して4倍であった。標準的なヒスパニックの応募者については、2.4倍であった。ノースカロライナ大では、応募者が州内か州外かで選好は著しく異なった*2。州内の応募者については、人種選好によってアフリカ系米国人の入学率は70%以上増加した。州外の応募者については、10倍以上となった。両大学とも、社会経済的バックグラウンドが良いURMsに対しては人種選好も大きくなった。

昨年10月のエントリで紹介したように、SFFA(Students for Fair Admissions=「公平な入学選考を求める学生たち」)はアファーマティブアクションに狙いを定めて玉突き的にアジア系の入学率を上げる戦略を採っているが*3、上記論文は(同エントリで紹介したカード論文とは対照的に)非アジア系マイノリティの入学時の選好を支持する結果になっており、SFFAの戦略に沿うものと言える。

*1:cf. 過小評価グループ - Wikipedia

*2:論文の本文でも言及されているが、ノースカロライナ大には州外の入学者を全体の18%に抑えるルールがあるとの由。cf. ここここ

*3:5/4付けハーバードクリムゾン記事では直近のその動きが取り上げられている。なお、米最高裁が中絶の権利を見直す方針というニュースは大きな話題を呼んで日本でも報道されたが、こちらこちらの記事によると、同最高裁はそれ以外にアファーマティブアクションも今年の見直し対象の俎上に載せているようである(あとは銃規制や宗教の自由もターゲットに定めているとの由)。