円安は交易利得にどの程度影響しているのか?

前回エントリでは9年前のエントリの実質為替レートのグラフを延長してみたが、9年前のその前日のエントリでは交易利得への円相場の影響をグラフ化していたので、15日に公表された21年のGDP統計を用いてそちらも延長してみる。具体的には、交易利得の計算式において輸出入デフレーターを円ベースの輸出入物価と契約通貨ベースの輸出入物価で置き換えたものを計算し、その差をみてみる*1
以下はそうして計算した交易利得のグラフ。
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なお、9年前のエントリに書いたようにこの実額は経済的にそれほど意味はないので、その前年差のGDP比も描画してみる。
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これをみると、昨年の交易利得への円相場の影響はほぼゼロに近い。

ただ、昨年は円安が1年を通じて進展し、それとともにその悪影響を懸念する声が高まったので、年次ベースでは解像度が少し粗い感もある。そこで、上の2つのグラフを四半期ベースで描き直してみる*2
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これをみると、確かに21年の最終四半期には円安がマイナスに効いている。とは言え――9年前のエントリのコメントをほぼ繰り返す形になるが――その影響は実質GDIの年度成長率を実質GDPに比べせいぜい0.1%強悪化させる程度に過ぎず、資源価格変動の影響に比べれば軽微かと思われる。

*1:交易利得の算式は
  (X-M)(x+m)/(X+M) - (x-m)
であるが(XとMは名目輸出入、xとmは実質輸出入)、その名目値XとMを、実質値に物価指数を掛け合わせたもので置き換えたものとなる。なお、当時は2005年で基準化したが、今回は2015年で基準化する。

*2:ここでGDP統計は季節調整値を使った。この時、輸出入デフレーターを使った交易利得の計算値は公表値と完全に一致する。なお、輸出入物価指数は季節調整値ではないので季節性の影響が懸念されるが、以下の最初のグラフをみると輸出入デフレーターベースの値との季節による差が明確に出ていないため、取りあえずの計算としては問題ないと考えられる。