交易利得とニュメレール・デフレーター

少し前のはてぶで、交易利得の計算におけるニュメレール・デフレーターは輸出入の寄与を人為的に均等化している、と書いたが、その点について少し補足しておく。


名目輸出をX、名目輸入をY M、実質輸出をx、実質輸入をy mとすると、ニュメレール・デフレーターは
  (X+M)/(x+m)
と定義される。輸出入の名目値は実質値にデフレータを掛けたものに等しいので、これは結局、輸出入デフレータを実質輸出入で加重平均していることになる。


交易利得は
 名目純輸出/ニュメレール・デフレーター − 実質純輸出
なので、上の記号を用いれば
  (X-M)(x+m)/(X+M) - (x-m)
として表わされる。これを各純輸出の輸出と輸入ごとにまとめると、
  (X-M)(x+m)/(X+M) - (x-m)
 = X(x+m)/(X+M)-x - M(x+m)/(X+M)+m
 = 2(Xm-Mx)/(X+M)
 = 2(m/M-x/X)/(1/M+1/X)
となる。即ち、交易利得において、
 名目輸出/ニュメレール・デフレーター − 実質輸出

 −(名目輸入/ニュメレール・デフレーター − 実質輸入)
は等しくなることが分かる。これが冒頭で「ニュメレール・デフレーターは輸出入の寄与を人為的に均等化している」と書いたことの意味である。


なお、以前指摘したように、交易利得の式でニュメレール・デフレーターを省略して単純に名目純輸出と実質純輸出との差を計算しても、結果はさほど変わらない。これは、ニュメレール・デフレータが1から大きく乖離することがなく、かつ、名目純輸出の額が相対的にそれほど大きくない、というデータの特性によるものである。その点を改めてグラフで示すと以下のようになる。

これは簡単のため年度ベースで計算したものだが、名目純輸出と名目純輸出/ニュメレール・デフレーターの乖離が、名目純輸出と実質純輸出の差に比べればかなり限定的であることが分かる。


なお、名目純輸出と実質純輸出との差は、名目輸出−実質輸出と−(名目輸入−実質輸入)に分解できる。それと、ニュメレール・デフレーターで人為的に均等化した交易利得における輸出入の寄与を並べて描くと、以下のようになる。


ここでは一応
 名目輸出/ニュメレール・デフレーター − 実質輸出

 −(名目輸入/ニュメレール・デフレーター − 実質輸入)
を分けて描画したが、同一値なので当然ながらグラフ上では重なっている。このグラフからは、その値が、名目輸出−実質輸出と−(名目輸入−実質輸入)の中間値となっていることが読み取れる。