21世紀の金融政策:学ばれた教訓と今後の課題

と題されたBISの年次経済報告書の第2章をMostly Economicsが紹介している。原題は「Monetary policy in the 21st century: lessons learned and challenges ahead」で、著者はBIS金融経済局長のClaudio Borio。
以下は同章で提示されている、大平穏期の見せかけの安定を打ち破った大金融危機とユーロ債務危機、コロナ禍とその後の予期せぬインフレという一連の異常事態を通じて学習された、金融政策ができること、できないことについての5つの教訓。

  1. 力強い金融引き締めは、インフレが高インフレレジームに移行するのを防ぐことができる。
    • たとえ中銀の当初の対応が遅かったとしても、急いで事態に追いついて、業務を遂行するのに必要な決意を示せば、成功することができる。
  2. 力強い行動、特に中銀のバランスシートの活用は、危機時の金融システムを安定させ、経済が混乱に陥るのを防ぐことができる。
    • それによってデフレ圧力の主な原因を取り除くことができる。
    • 金融もしくは非金融の借り手企業の債務履行能力が脅かされた場合には、政府がそれを食い止めることが要求される。
  3. 非常に力強く長い金融緩和には限界がある。
    • 収益の逓減がある。
    • 単独では低インフレレジームにおけるインフレを微調整することができない。
    • 金融仲介の弱体化、資源の誤配分の誘発、過度のリスクテイキングの促進、脆弱性の形成、バランスシート膨張に伴う中銀の経済的および政治経済的な課題の惹起、といった歓迎できない副作用がある。
  4. コミュニケーションはより複雑になった。
    • これは、ツールの多様性、インフレ高騰を予期できなかったこと、および、より全般的な話として、中銀ができることとできると期待されていることのギャップの拡大による。
  5. 為替介入とマクロプルーデンシャル政策を補完的に用いることが、物価と金融の安定性の間のトレードオフを改善するのに役立つことが特に新興国において示された。
    • それらの政策を賢明に使用するためは、殊に為替介入について、政策の限界をきちんと弁えておく必要がある。

これらの教訓は、今後の金融政策の指針として検討されるべき以下のポイントの重要性を指し示しているとの由。

  • まったく異なる複数のシナリオに対する金融政策の頑健性。
  • 野心における現実主義、即ち、金融政策ができることとできないことについての現実的な見解。
  • 安全限界、即ち、政策展開余地ないしバッファの確保。特にバランスシート政策において、バランスシートはできるだけ小さく、リスクを少なくしておく。
  • 機動性。
  • 各政策間の一貫性。これは、マクロ経済と金融の安定性を継続させる上で極めて重要。

また、過度な依存が柔軟性への障害となり得る政策として、各種のフォワドガイダンス、モデル特有の観測できない概念に大きく依存すること、変わらないとされる経済環境のために設計された枠組み、を挙げている。そのほか、経済成長をもたらすために金融政策や財政政策に過度に頼ること――「成長幻想(growth illusion)」――のリスクも強調しており、経済の供給面を強化する構造政策だけが持続的な高成長をもたらせるのだ、としている。