感染率の不均一性が福音となる時

13日エントリで紹介したコーエンのブログエントリには多くのコメントがついたが、そのうちの一つをコーエンはこちらのエントリで取り上げている。そのコメントの主はKronradと名乗っているが、本名はLuzius Meisserという経済学者で、コメントの最後では自分の主張を裏付けるシミュレーションを行った自githubページに誘導している。
以下はそのページに書かれた小論の序文。

The usual pandemic models assume the infection rate to be the same for all citizens (for example covidsim.eu or the Robert Koch Institute Model). However, in reality, social interactions follow a power-law distribution: some people are much better connected than others and also have much more potentially contagious social interactions with a more diverse set of others. Assuming the power-law distribution usually observed in social networks, there should be a few super-spreaders with a very high infection rate (e.g. a politician who shakes hands all day), and many less connected citizens with a low infection rate (e.g. a gamer :) ). Naturally, the super-spreaders are not only the ones who spread the disease the most, but also the ones that will get it first. As a consequence, the infection rate R0 will look very high in the initial phase of a pandemic, but decline sharply once the super-spreaders are cured (or dead). A further consequence is that herd immunity is reached much faster and that a well-timed lockdown can stop the disease much earlier than what other models suggest.
(拙訳)
通常のパンデミックモデルは感染率が全市民で同じと仮定する(例えばcovidsim.euロベルト・コッホ研究所のモデル)。しかし現実には、社会的な交流は冪乗則の分布に従う。即ち、ある人はほかの人よりも社会的繋がりが遥かに多く、より多様な人々の集合と感染を伴う社会的交流をする可能性も高い。社会ネットワークで通常観測される冪乗則を仮定すると、非常に感染率の高い少数のスーパースプレッダー(一日中握手している政治家など)と、社会的繋がりが少なく感染率の低い多くの市民(ゲーマーとかw)が存在することになる。当然ながら、スーパースプレッダーは病気を最も広めるだけでなく、最初に罹患する。その結果、パンデミックの初期フェーズでは感染率R0は非常に高いように思われるものの、スーパースプレッダーが治る(もしくは死ぬ)と急速に低下する。さらにその先の結果として、他のモデルが示すよりも集団免疫がかなり早く獲得され、時宜にかなったロックダウンはかなり早期に病気を終息させる。

本文では、以下の2つのモデルのシミュレーション結果を比較している。

  • ベースラインモデル(従来のモデル)
    • パラメータ設定:人口=百万、潜伏期間(感染から他者に移すようになるまでの期間)=5日、回復期間=10日
    • R0=3.0の場合(=感染者が感染性のある10日間に平均して3人に接触する場合)、集団免疫(=全体の感染率が1以下となる状況)の獲得のためには人口の66%が免疫を獲得する必要。
    • 49日目には集団免疫が獲得されるが、そこでパンデミックが終息するわけでは無く、指数関数的な伸びが線形の伸びに変わるだけ。最終的な未感染者は僅か1%。
    • このモデルでは、徹底した措置でウイルスを止めたとしても、その措置を緩めれば再発する。治療法を見つけるか徹底的な措置を非常な長期に亘って続けない限り、いずれ人口の大部分がウイルスに接触する。
  • 感染率の分散を許容したモデル
    • 33%の人が全体の66%の接触をすると仮定(パレート則の2割の人が8割の接触よりも弱めの仮定)。
    • 前項の従来モデルシミュレーションと同じくR0=3.0とすると、感染者数の増加はより急になるが、ピークはより低くなる。未感染者は17%となる。
    • R0=2.0とすると、感染者数の立ち上がりが従来モデルシミュレーションと同じようになる(25日後に4200人)。
    • 従来モデル(R0=3.0)では66%が感染した時に集団免疫が獲得されたが、冪乗モデル(R0=2.0)では10%が感染した時に集団免疫が獲得される。その時にロックダウンを行えば、最終的な感染者は人口の約20%に留まる。
      • ただし、集団免疫獲得を確認するために毎日ランダムに1人を感染させたところ、そのランダムに選択された人が感染率が1より高い集合の一員だった場合、局所的なアウトブレイクが生じた。
      • また、この楽観的なケースでも40日目には人口の20%が病気となるので、何らかの対策を打たない限り医療崩壊が生じる。そのほか、人口がもっと大きかったり、様々な対策によってカーブがより平らになった時にはあらゆる物事の進展の速度がもっと遅くなることにも注意。