自由貿易の恩恵の虚実

クルーグマンが、保護主義者は常に自由貿易の負の側面を誇張し、自由貿易論者は常に自由貿易の正の側面を誇張する、と論じた(ここここ)。


それに対しデロングが以下のように異を唱えた

...looking around the world we see a world in which income differentials across high civilizations were twofold three centuries ago and are tenfold today. The biggest factor in global economics behind the some twentyfold or more explosion of Global North productivity over the past three centuries has been the failure of the rest of the globe to keep pace with the Global North. And what are the best ways to diffuse Global North technology to the rest of the world? Free trade: both to maximize economic contact and opportunities for learning and imitation, and to make possible the export-led growth and industrialization strategy that is the royal and indeed the only reliable road to anything like convergence.

So I figure that, all in all, not 5% but more like 30% of net global prosperity--and considerable reduction in cross-national inequality--is due to globalization. That is a very big number indeed. But, remember, even the 5% number cited by Krugman is a big deal: $4 trillion a year, and perhaps $130 trillion in present value.
(拙訳)
・・・世界を見回してみると、高度な文明国同士の所得格差が3世紀前は2倍だったのに、現在では10倍になっていることに気付く。過去3世紀に世界の北部地域の生産性が20倍かそれ以上に急速に伸びた世界経済の最大の要因は、それ以外の地域が世界の北部地域についていけなかったことである。では、世界の北部地域の技術をそれ以外の地域に普及させる最良の方法は何だろうか? それは自由貿易である。経済的接触ならびに学習と模倣の機会を最大化し、収斂と言えるものへの王道、ないし、実際のところ当てになる唯一の道である輸出主導の成長と工業化戦略を可能にする、という2つの目的に自由貿易は適う。
ということで、概して言えば、世界の純ベースの繁栄――および国家間の格差の顕著な縮小――のうち5%ではなく30%がグローバル化のお蔭だ、と私は考えている。それは非常に大きな数字である。しかし、注意すべきは、クルーグマンが引き合いに出した5%という数字も大きなものだ、ということである。年当たり4兆ドルであり、現在価値にしておそらく130兆ドルになる。


これにさらにクルーグマン反応し、グローバリゼーションの真の恩恵は技術の普及にあるのだ、というデロングの主張について以下の問題点を指摘した。

  • モデルからはそうした話は出て来ない。
  • 米国やドイツの経験を基に、輸入代替的な工業化が経済的離陸の鍵だという議論が一般的だった時期もあったが、発展途上国が一斉にそれを試した時、結果は芳しいものでは無かった。
  • 比較優位を基に自由貿易の利点を喧伝しようとする経済学者の話は、得てして比較優位とは無関係の根拠を基に貿易を称揚することに終わることが多い。貿易による正の外部性はあり得るものの、多くの物事に正の外部性が存在しており、リカーディアンなモデルからは貿易の正の外部性が特に重要だという論拠は出て来ない。
  • 50〜60年代にもてはやされた輸入代替的な成長経路に代わり、90年代初めには、アジア経済の急成長を基に、輸出主導的な成長経路が主流となった。しかし、メキシコが急激な貿易の自由化やNAFTA加盟によって輸出主導経済に転換した時、その効果は芳しいものでは無かった。
  • デロングが正しい可能性はあるが、実証的証拠は決定的というには程遠い。クルーグマン自身も貧困国が門戸を開放することの重要性を大いに主張するが、自由貿易の長所について論じる時は慎重であらねばならない。


このクルーグマンの反論に対しデロングは以下のように書いている

Let me simply note here that the Donald and the Bernie want to shut our markets and keep poor countries' products out. I guess I should leave it there...
(拙訳)
ドナルドとバーニーが我々の市場を閉ざして貧困国の製品を締め出そうとしている、ということだけ指摘しておこう。これでこの話は終わりにしておいた方が良さそうだ…。