一昨日、昨日とTim Taylorへのクルーグマンの批判とTaylorの反論を紹介した。クルーグマンからの再反論は今のところ無いが、小生なりに想定される再反論を組み立ててみると、概ね以下のようになる。
- サマーズが復活させた長期停滞論は、マイナスの自然利子率を一つの特徴としている。その点を論じずにアルヴィン・ハンセンの元々の議論を持ち出すのはやや的外れ。
- 財政政策の規模の適切さは、対応する需要の落ち込みを基に判断するべきで、過去事例との比較に基づく判断はやや的外れ。
- 政策の効果が低下したことは、その政策を放棄すべきことを意味しない。むしろその政策をもっと積極的に推し進めるべき理由にもなり得る。金融政策の効果の低下についてクルーグマンが出した答えの一つは、「信頼できる形で無責任になる」という極端とも言える手法で金融緩和策をより積極的に推し進め、インフレ期待を高めることだった。またサマーズは、本ブログの12/23エントリで紹介したように、FRBの利上げを長期停滞の可能性を強めるものとして批判した。なお、両人の金融政策への論考には前述の自然利子率の低下が大きな前提として横たわっている。その点を等閑視してテイラーが自分の金融政策に対する見解をクルーグマンと同一であるかのように論じたのは議論としてやや乱暴。
ただし、クルーグマンのように頭ごなしに相手を否定するような批判のやり方を問題視した点に関しては、Taylorの方に一理あるように小生には思われる。
ちなみに12/23エントリで紹介したサマーズの論説について、最近クルーグマンとデロングが論考を交わしているが(デロング1、クルーグマン、デロング2)、その中の表題のエントリ(原題は「Respectable Radicalism」)でクルーグマンは以下のように書いている。
...back in 2011 I noted that
[S]upposedly sober, serious people are actually radicals insisting that we can make the economy work in ways that it has never worked in the past … Meanwhile, the irresponsible bearded professors are actually the custodians of traditional wisdom.
...
I think I understand how being an official, surrounded by men (and some but not many women) who seem knowledgeable in the ways of the world, can create a conviction that you and your colleagues know more than is in the textbooks. And that may even be true in normal times, when recent experience counts a lot. But in a world of zero-lower-bound macroeconomics, which is a world nobody not Japanese experienced for three generations, theory and history are much more important than market savvy. I would have expected current Fed management to understand that; but apparently not.
(拙訳)
・・・2011年に私は以下のように書いた。分別のある真面目な人々が、実際には、過去に決してそのように動かなかったようなやり方で経済が動くようにすることができる、と主張する急進派である半面、…無責任な髭面の教授連が実は伝統的な知恵の守護者であったりする。
・・・
政府当局者となり、世の中について通じているように思われる男性(およびそれほど多くは無い女性)に囲まれていると、自分と自分の同僚は教科書に書かれている以上のことを知っているという確信を抱くようになる、というプロセスについて私は分かっているつもりだ。そしてそれは、最近の経験がモノをいう通常時には真実でさえあるだろう。しかし、日本人以外はここ90年経験したことの無いゼロ金利下限のマクロ経済学については、理論と歴史の方が市場での豊富な経験よりも遥かに重要である。私は現在のFRBの上層部がそのことを理解しているものと思っていたが、明らかにそうではないようだ。
この論理を裏返すと、FRBはゼロ金利下限のマクロ経済学について実際に経験を積み重ねた日本の市場関係者ないし彼らが支持する経済学者に耳を傾けるべき、ということにもなりかねないが、さて…。