一昨日紹介したデロングの考察に対し、David Andolfattoが、同様のデータを扱った自分の以前のエントリを引きつつ反論している。
Andolfattoはまず、就業率に関してデロングが挙げた4点のうち最初のポイント
もし米国経済が潜在生産力水準で稼働するならば、25-54歳の就業率は2000年初めと同水準になっているべきである。当時の経済にはインフレ上昇の兆候はほとんど見られなかった。
について反論し、潜在生産力という言葉は循環的ないし平均回帰的な変動を想起させるが、男性の就業率は長期的には低下傾向にあるのではないか、として米加の1976年以降のグラフを示している。
よって、2000年の局地的なピークが潜在生産力に関する何らかの魔法の尺度になっているとは思えない、というのがAndolfattoの見解である。こうした低下傾向の背後には、障害率の上昇などの「構造的な」要因が働いているのではないか、とAndolfattoは言う。ただ、現在の就業率が完全に回復した状態にあると考えているわけでもない、と断った上で、下図の1990年代のカナダのような回復途上にあるのではないか、という見方を示している。
また、女性の就業率が潜在生産力を下回っているというのはさらに間違っている、とAndolfattoは言う。
上図のカナダのように他の先進国では女性の就業率は上昇傾向にあるのに、米国だけ最近は特異な動きをしている、というのがAndolfattoの指摘である。2008年以降の低下はその一部は循環的なものであろうが、大部分はやはり構造的なもの(産休給付の変化など)ではないか、と彼は言う。そしてこの問題は、金融政策ではなく、財政政策もしくは労働市場政策が取り組むべき問題である、と述べている。
一方、デロングの3点目のポイントと4点目のポイント
2000年初めはインフレが加速していなかったとしても長期的に維持可能な潜在生産力を超えていた、と考えた場合でも、米国経済がフル稼働した場合に2006年水準の雇用水準に戻るとは考えても良いのではないか。その時の就業率は現在より3%ポイント高く、就業者数は4%(1/25)多かった。
米国経済の潜在生産力への収束は非常に遅く、25-54歳の就業率は過去2年に1%ポイント上がったに過ぎない。
には異論が無いとしている。ただ、回復の遅さについては、以前ここやここで説明したように、構造的な現象と考えているとの由。
また、FRBの考えについてのデロングの見立て
然るにFRBは、米国経済が潜在生産力の水準に近付いたため、何か想定外のことが起きない限り資産購入を続けるのは不適切であり、インフレは2%目標を下回っているものの1年以内に金利を上げ始めるのが適切であると考えている
については、FRBを代弁するつもりはなく(注:Andolfattoはセントルイス連銀の現職のエコノミスト)、そもそもFOMC内の意見も分かれている、と断りつつも、インフレは「一時的に」目標を下回っているというのがコンセンサスの見方だ、と指摘している。また、最近のFOMC声明で、いかなる金利引き上げも入ってくるデータ次第だ、と明確に述べているし、仮に引き上げが進むとしても2004年と同様「抑えられたペース」になるはずだ、とも指摘している。
そして、
上記の25-54歳の就業率の話とこのFRBの方針を整合させるとすると、25-54歳人口のうち2〜4%ポイントが大不況によって恒久的に労働力人口の外に追いやられ、二度と戻って来られない、ないし、少なくともFRBが容認できないほどの経済へのインフレ圧力無しには二度と戻って来られない、ということになる
というデロングの解釈については、これが意味するのは就業率低下の主因が「構造的」要因ということであり、対処の必要があるにしても財政政策で対処すべき、という前述の自論を繰り返している。
また、デロングの最後の2つの疑問のうちの一点目
FRBは、なぜそれほど――政策をそれに基づいて策定するほどまでに――これが真実であると確信しているのか? 特に、現在のインフレ率は依然として2%を下回っているのに?
については、FRBを代弁するものではないと再度断りつつも、FRBのバランスシート拡大があまり効果的では無かった――特に労働市場改善に対して――という主張があることを指摘している。また、これほど巨大なバランスシートを扱うという「何が分からないか分かっていない」状況について、FRBの人々は幾分神経質になっていることも指摘している。このように未知の領域に乗り出したことの便益はどう頑張っても大したものとはならない一方で、リスクは完全には分かっていない、とAndolfattoは言う。低金利政策が金利を求める動きを誘発して金融の不安定化につながる、という懸念の存在についても彼は指摘している。
そしてインフレが2%目標を下回っているにしても、それほど大幅に下回っているわけではなく、過去データに基づくテイラールールでは、インフレが1.5%という現在の状況下では25bpよりもさらに高い(とは言え依然低水準の)政策金利が望ましいということになる、という点も(それが自分の見解ではないと断りつつも)指摘している。
そして、デロングの疑問の二点目
もし、25-54歳人口のうち現在労働力人口の外にある2〜4%ポイントが、インフレ率が2%の目標を超えるのを容認すること無しには戻って来られない、というのが真実ならば、それは現在の77%という25-54歳の就業率を経済の潜在生産力の限界として受け入れるという話ではなく、2%のインフレ目標を引き上げるという話になるべきではないのか?
については、インフレ目標を3%や4%などに上げても労働市場に長期的な影響は生じるとは思わない、と明確に反論している。顕著に高いインフレ税はむしろ雇用を阻害するかもしれない(長期のフィリップス曲線の傾きは正かもしれない)、とAndolfattoは言う。回復の6年目において労働市場で直すべきことがあるならば、(産休給付の改善などの)労働市場政策や(減税や賃金/教育補助などの)財政政策で直接対処すべき、というのが彼の見解である。