相続財産は経済的機会をもたらす?

格差について触れたイエレンのボストン講演が波紋を呼んでいるが、ブルッキングス研究所のRichard V. Reevesが、一般の受け止め方に反し、この講演はイエレンの内なる保守主義を明らかにしたのではないか、と評している

Reevesによれば、イエレンは、米国における機会には4つの構成要素がある、と論じたという。

  • 教育、特に「子供が最も発達する時期における利用可能なリソース」
  • 大学、ないし「学生やその家族が賄える高等教育」
  • 「事業主となること」
  • 「相続財産」

このうち最初の2つは民主党寄りの話だが、残りの2つは共和党寄りの話であり、かつ機会にとってプラスかどうかはより議論の余地がある、とReevesは指摘する。


うち3点目について、イエレンは以下のように述べている。

One reason to be concerned about the apparent decline in new business formation is that it may serve to depress the pace of productivity, real wage growth, and employment. Another reason is that a slowdown in business formation may threaten what I believe likely has been a significant source of economic opportunity for many families below the very top in income and wealth.
(拙訳)
新規企業の立ち上げが明らかに減少していることを懸念すべき理由の一つは、それが生産性や実質賃金の伸び率、ならびに雇用を抑制する可能性があるからである。もう一つの理由は、企業の立ち上げの鈍化が、所得や資産の最上位に比べ下方に位置する多くの家族にとって経済的機会の重要な源泉となってきたであろうと私が信ずるものを脅かす可能性があるからである。

これについてReevesは、事業保有が多数ではなく少数に経済的利益や税控除や富をもたらしてきたというこれまでの格差研究の結論に照らすと、かなり挑戦的な意見だ、と評している。


また4点目についてイエレンは次のように述べている。

The average inheritance reported by those in the top 5 percent who had received them was $1.1 million. That amount dwarfs the $183,000 average among the next 45 percent and the $68,000 reported among the bottom half of households. But compared with the typical wealth of these households, the additive effect of bequests of this size is significant for the millions of households below the top 5 that receive them.
(拙訳)
遺産を相続した上位5%の申告する平均相続財産は110万ドルである。その額は、その下の45%の平均18.3万ドルと、真ん中から下半分の家計が申告する6.8万ドルに比べれば巨額である。しかし、それらの家計の平均的な財産に比べた場合、その額の遺産による相加効果は、上位5%より下に位置する何百万という相続対象の家計にとっては重要なものとなる。

これについてReevesは、イエレンはトマ・ピケティを読んでいないのか、と難じ、この点について彼女は明らかに間違えている、と切り捨てている。


以上からReevesは、イエレン講演を批判する保守派は落ち着いて彼女の講演を良く読むべき、それは論調はリベラルだが中身は保守的、即ち外は青だが中は赤なのだから、と結論づけている。