独占的競争とプラッキングモデル

6/1付けWCIブログエントリでNick Roweが、プラッキングモデル*1と自らの持説である独占的競争による需要制約論*2との関係について考察している。


Roweは、実質GDPが単純にトレンドを中心に変動しつつ成長する場合と、プラッキングモデルの想定する場合の違いを、以下のような喩え話で説明している*3

  • ラッキングモデルの想定する成長
    • 完全に平坦な庭においてランダムな深さの穴を掘り返し、掘った土は余所に売り払う。
    • 蟻がその庭の表面を這った場合、山から谷に下りた場合の高低差と、続いてその谷から次の山に上った際の高低差との間に強い相関を見い出すだろう。しかし、谷から山に上った場合の高低差と、続いてその山から次の谷に下った際の高低差との間には相関を見い出さないだろう。
    • 即ち、谷深ければ山高しだが、山高ければ谷深しではない。
  • トレンドを中心とする成長
    • 完全に平坦な庭においてランダムな深さの穴を掘り返し、掘った土を用いてランダムな大きさの塚を作る。
    • 蟻がその庭の表面を這った場合、下りとそれに続く上り、および、上りとそれに続く下りとの間に弱い相関を見い出すだろう。


実証研究によれば、実際の景気循環はトレンド中心というよりはプラッキングモデルに近いという。あるいはもっと正確に言えば、両者の中間のどこか、ということになる。


一方、Roweの持説である独占的競争はトレンドを中心とする成長と整合的である半面、Roweが非現実的と考える完全競争はプラッキングモデルに近くなる。というのは、完全競争における経済は、最大供給水準近くで変動するもののそれを超えることは決して無いが、独占的競争における経済は、均衡値周辺で変動し、それを超えることもあり得る(∵独占的競争における均衡値は最大供給水準より低い)からである。


この矛盾について、Roweは以下のような解決策を図っている:

  • 独占的競争企業が小さな正の需要ショックに見舞われ、彼らの価格が粘着的である場合、彼らは需要を満たすために増産するだろう。
  • しかし、独占的競争企業が大きな正の需要ショックに見舞われ、彼らの価格が粘着的である場合、彼らは需要を満たすために増産することはしないだろう。というのは、それによって価格が限界費用と等しくなる点を突破してしまうからである。
  • 従って、小規模の景気拡大は起こり得るが、大規模な景気拡大は起こり得ない。一方、景気後退は小規模のものも大規模のものも起こり得る。これにより、トレンド中心の景気循環とプラッキングモデルの景気循環の間の結果が得られることになる。

*1:このモデルについては昨年9/30付けHicksianさんエントリ参照。

*2:cf. ここここここ

*3:そのほか、そもそものフリードマンの喩え(=板の上に張った糸を引っ張ると元に戻る)の喩え、および、サムナーの喩え(=高原における谷;山のように見えるのは単に谷の無い場所に過ぎない[景気拡大のように見えるのは単に景気後退の無い時期に過ぎない])も援用している。