マンデル=フレミングの右手の法則

クリス・ディローが財政緊縮政策に絡んでマンデル=フレミングモデルを持ち出している


マンデル=フレミングモデルでは、一定の条件下で、財政政策の無効性と金融政策の有効性を示している。従ってこれは、英国連立政権でオズボーン財務相が推進する財政緊縮策を支持するものと言える、とディローは指摘する。ましてやこのモデルでは、財政緊縮策が国内需要を冷やして金利を下げることにより、資本流出を促して為替を減価させ、その結果輸出を促進して国内需要の落ち込みを補う、ということになっているのだから猶更である。


従ってオズボーンを論破するためには、まずマンデル=フレミングモデルを論破する必要がある、とディローは言う。同時に彼は、LM曲線の使用が同モデルの弱点だと思われるかもしれないが*1、今の場合はそれは問題にならない、とも言っている。というのは:


その上でディローは、マンデル=フレミングモデルの問題点として以下を挙げている。

  • タイムラグの問題。緊縮策はすぐに経済に影響するが、為替による輸出の増加には時間が掛かる。また、イングランド銀行の金融政策の枠組み変更に3年掛かるような状況では、金融政策の積極性にも疑問が残る。
  • 為替と純輸出の増加の関係は一直線ではない。
    • 為替のボラティリティの高さのため、輸出業者は、為替の変化が恒久的だと思うようになるまで行動を思いとどまる。
    • グローバルなサプライチェーンにより、輸出には輸入要因が少なからず含まれている。
    • 市場に合わせた価格設定や多国間貿易は、為替の消費者物価への影響を限定的なものとし、それは輸入から輸入代替への切り替えを限定的なものとする。


さらにディローは、これらの問題点はマンデル=フレミングを無効化するものではなく、単に必要とされるポンドの下落幅が大きいことを意味するだけではないか、という予想される反論に対し、以下の点を指摘している。

  • 為替がマクロ経済モデルの予言通りに動くことは滅多に無い。アセットアロケーション戦略を為替予測に基づいて立てるのが愚かであるのと同様、マクロ経済政策を為替予測に基づいて立てるのも愚かである。
  • 財政緊縮策と金融積極策の組み合わせは英国の専売特許ではなく、米国とユーロ圏も同様の方向を目指している。すべての国の為替が減価することは有り得ない。グローバル経済は閉鎖系なので、そのレベルではマンデル=フレミングモデルは効かなくなる。


以上から、マンデル=フレミングは現在の英国の連立政権の政策を正当化しない、とディローは結論付け、同政策の支持者がこのモデルを持ち出さないのもおそらくそのためだろう、と述べている。

*1:LM曲線批判についてディローはサイモン・レン−ルイスの1年前のエントリにリンクしている。それ以外の議論については、例えば本ブログのこちらのエントリやその続きのエントリを参照。