財務省からIMFに出向されている津田尊弘氏が、IMFシニア・エコノミストのSerkan Arslanalpと共に、国債の安全性を投資家の属性から計測する指標を開発し、その内容をIMFブログ(iMF direct)で紹介している(ハッフィントンポストにも転載されている)。簡単に言えば、国内の中央銀行ならばゼロ、民間銀行ならば26、外銀ならば87、というように逃げ足の速さに応じて投資家にリスクスコアを付け*1、それを各国債の投資家構成に基づいて集計した指標、ということになる。元となる論文は昨年12月に出されており、日本語ブログでも既にここやここで紹介されているので、詳細についてはそちらを参照されたい。
Free Exchangeもこの指標を取り上げたが、筆者のM.C.K.はその有効性に懐疑的で、以下のように書いている。
I have several issues with this methodology. Most obviously, the risk index did not do a very good job of predicting which countries have been hit by crises and which have not. Yes, Greece had the highest risk index at the beginning of 2008. But Austria was only a few points below it—and well above Portugal. Finland—Finland!—is consistently measured as being exposed to some of the world’s flightiest bondholders. Meanwhile, Ireland supposedly had the most resilient investor base in the euro area by a significant margin at the start of 2008 and was considered safer than the Netherlands as late as the summer of 2009. In the fourth quarter of 2011, the IMF index makes it seem as if Spain would be safer than Germany.
(拙訳)
この手法には幾つか問題点がある。最も明確な問題点は、危機に襲われた国とそうでない国を予言することについて、あまり良い結果を残していない点である。確かに、ギリシャは2008年初めにはリスク指標が最も高かった。しかしオーストリアはそれより数ポイント低かったに過ぎず、ポルトガルより遥かに上だった。フィンランド――フィンランド!――は一貫して、世界で最も逃げ足の早い債券保有者に曝されている、という結果になっている。一方、アイルランドは、2008年初めにはユーロ圏で断トツで最も頼り甲斐のある投資家基盤を持っていたことになっており、2009年夏になってもオランダより安全だったとされている。2011年第4四半期には、このIMF指標はスペインがドイツより安全だとしている。
その上で、ユーロ圏の国についてこの指標が上手く行かなかった理由を以下のように推測している。
What could be behind the risk index’s failure? One possibility is that the euro corrupted their results. There is no reason to think that domestic savers in the currency area are inherently less flighty than foreign ones. In previous currency crises, such as in Southeast Asia in 1997 and Argentina in the early 2000s, the first people to pull their money out were well-connected insiders rather than skittish foreigners. Something similar may have occurred in the euro zone. A Spaniard has very little reason to own Spanish government bonds rather than Dutch government bonds since both instruments are denominated in euros and both are ostensibly free of risk. However, if the Spaniard starts to think that a Spanish bond could be redenominated into pesetas, or could be written down as part of a “voluntary” “private sector initiative,” he has every reason in the world to swap his Spanish bonds for German or Dutch bonds—even if the risk seems vanishingly small. (In contrast, savers in countries with their own currency have to buy locally-denominated debt if they want to hedge long-duration fixed-income liabilities.)
(拙訳)
このリスク指標が失敗したのはなぜだろうか? 一つの可能性は、ユーロが指標を駄目にした、というものである。通貨圏においては、国内の貯蓄者が海外の貯蓄者ほど本質的に逃げ足が速くない、と信ずべき理由は何も無い。1997年の東南アジアや2000年代初めのアルゼンチンのようなこれまでの通貨危機では、真っ先に資金を引き出したのは情報に通じているインサイダーであり、びくつきやすい外国人ではなかった。ユーロ圏でも同様のことが起きたのかもしれない。スペイン人がスペイン国債よりオランダ国債を持とうとする理由はあまり無い*2。共にユーロ建てであり、表向きは両者ともリスクフリーだからだ。しかし、もしスペイン人がスペイン国債がペセタ建てに変更されるかもしれない、もしくは、「自発的に」「民間部門主導で」減額されるかもしれない、と考え始めたら、たとえその危険性が無視できるほど小さなものだとしても、手持ちのスペイン国債をドイツもしくはオランダ国債にスワップしようという理由が大いに存在することになる(対照的に、自国の通貨を持つ国における貯蓄者は、長期のデュレーションを持つ固定利息債務をヘッジしたいと思う場合、自国通貨建ての債券を購入せざるを得ない)。
この指標の開発者たちの目的は、日本をはじめとした債務GDP比率が高い国債も、国債保有者の属性を考えればそれほど心配することは無い、という点を示すことにあったと思われるが、この記事では、M.C.K.は専らユーロ圏の国に着目して、上記のような辛口の評価を下してしまった(唯一、上記引用部の最後の括弧書きの中で開発者の意図に沿う論理展開をしている)、という齟齬が生じた格好になっている。