新制度学派経済学への招待

UDADISIの2012年経済学論文ランキングから今日は第4位の論文を紹介してみる(論文のタイトルは「Institutions, Economics and the Development Quest」で、著者はポルト大学のDuarte N. Leite、Sandra T. Silva、Óscar Afonso)。


以下はその要旨。

Institutions, crucial for the analysis of how agents deal with uncertainty, have been gaining increasing relevance on the Economic research agenda. In this paper, we analyze the institutional literature that provides insights into different research fields, aiming to explain why this perspective obtains better results than others, in the field of growth and Development Economics. In particular, we stress the relevance of New Institutional Economics as an adequate framework for a broad understanding of development issues.
(拙訳)
経済主体が不確実性にどのように対処するかを分析する上で不可欠な要素である制度は、経済学の研究においてますます重要性を増している。本論文では、様々な研究分野において新たな洞察をもたらしている制度に関する研究の動向を分析し、成長と開発の経済学においてそうした制度という観点からの研究が他の研究に比べて優れた結果を出す理由の説明を試みる。特に強調したいのは、開発に関する問題を幅広く理解する際の適切な枠組みとしての新制度学派経済学の重要性である。

論文本文では、以下の表を提示して新制度学派経済学と新古典派経済学を対比させている。

新制度学派経済学 新古典派経済学
限定合理性 完全合理性
不均一な経済主体 均質な経済主体
内生的な制度 制度は所与
非最適化行動(ただし一部の系統においてのみ) 最適化行動
一部の系統においては非ワルラス ワルラス
数学的ツールとモデル(ただし一部の系統においてのみ) 数学的ツールとモデルは分析の中核に位置する

さらに、新制度学派経済学の各理論系統を以下のように分類している

理論系統 主な研究コンセプトないし手法 制度の定義 論者
所有権 取引コスト、法と経済学 (*1) Alchian (1961, 1973);Barzel (1989); Coase (1937, 1960); Demsetz(1967, 1973) and Williamson (1975, 1985);
法的所有権 成文法 (*1) Posner (1977, 1981, 1992).
契約理論−企業組織論 企業組織論、情報の不完全性 (*1) Coase (1937, 1960) and Williamson (1987, 1990);
契約理論−エージェンシー理論 情報の不完全性/非対称性 (*1) Hart (1987); Holmstrom (1987); Jensen (1976); Meckling (1976); and Stiglitz (1990).
ゲーム理論−標準的アプローチ ゲーム理論、「静学的」および繰り返しゲーム:エージェントは完全合理的になり得る 制度は自発的に出現する(Schotter (1981));もしくは「ゲームの規則」が前以ってプレイヤーによって定義されている(Shubik (1975)) Calvert (1995); Greif (1989, 1994, 1997, 1998); Schotter (1981) and Shubik (1975).
ゲーム理論−進化論的アプローチ 進化ゲーム理論:エージェントは限定合理的 制度は自己組織化過程を通じて自発的に出現する Aoki (1995, 2001); Axelrod (1984); Bowles (2004); Sugden (1989, 2004) and Young(1998).
進化論 進化主義 規則や行動パターンとしての制度;社会的規則;習慣、および組織 Nelson and Winter (1982).
政治的統治 集団行動の問題を集団的意思決定で解決;利益集団が制度設計に影響 集団行動の問題を統治するために設計された規則 Axelrod (1997); Mueller (1989); Olson (1965, 1982) and Ostrom (1990, 1991).
歴史的視点 制度やその時間を通じた進化や実際の経済的状況への影響に関する歴史的分析 概ねエージェントによって定義される、関係を規定するゲームの規則 Davis (1971);Greif (2005); Haber (1991); Libecap (1989) and North (1971, 1981, 1990, 1992, 2004).

(*1)エージェントの行動を規定するゲームの規則;概ね人によって意図的に定義される/(エージェント理論では)最適化行動が許される



また、開発経済学における新制度学派経済学をまとめた以下の表を提示している。

系統 副系統 概要 論者
歴史的アプローチ 植民地の遺産 植民地国は被植民地に制度的な刻印を残す

様々な法的手法が制度に影響する


North (1990)


La Porta, Lopez de Silanes, Shleifer and Vishny (1997, 1998, 1999) ; La Porta, Lopez de Silanes and Shleifer (2008)
 〃 植民地の遺産Plus 各植民地の相異なる条件が受け継がれた制度という形でその運命に影響する

初期条件とその後の制度が将来を決定する
Acemoglu et al. (2001)



Engermann and Sokoloff (2002)

 〃 政治闘争 対外部勢力もしくは支配者同士の抗争が多いほど新たな制度が形成される機会が増える


Bates (2001); Herbst (2000)



Nugent and Robinson (2002; 2010)
 〃 信念と規範 各国に元々根付いている信念と規範は新たな制度の導入を阻むか、少なくとも取捨選択に決定的な役割を果たす

文化もまたそうした役割を果たす
North (1994, 2004); Greif (1994); Knack and Keefer (1997)


Bednar and Page (2005)
比較制度学派アプローチ 進化ゲーム 制度は、それが均衡ならば受容する主体同士の相互作用の結果として自発的に出現する Aoki (1994, 1995, 2001); Greif (1998); Okazaki and Okuno-Fujiwara (1996) and Young (1995)
 〃 繰り返しゲーム 制度は、主体の意思によって形成される組織の設計によって、協調への努力の賜物としてもたらされる Aoki and Dinc (1997); Fafchamps (1996); Greif (1989); Greif, Milgrom and Weingast (1994),
 〃 混合 リンケージ


相補性

Aoki (2001); Spagnolo (1999) – an application; Platteau and Seki (2000);

Aoki (2001); Hall and Soskice (2001) and Boyer (2005)
不完全情報アプローチ 制度は、市場の欠落への解決策、もしくは、情報の非対称性の問題を防ぐための解決策 Stiglitz (1974, 1985, 1986, 1990); Cheung (1969); Newbery & Stiglitz (1979) and Braverman & Stiglitz (1982, 1986)