リチャード・グリーンがキャピタルゲイン税に関して興味深い考察を行っている(Economist's View経由)。
彼によると、ロムニーの支払った税金の実効税率の低さで世間の注目を集めた(cf. ここ)キャピタルゲインへの課税については、その税率を通常の所得税と同じ水準に引き上げれば簡単にバフェット・ルールが満たされて話が丸く収まるように思われるが、実際の実施に当たっては3つの政策上のジレンマと1つの実務上の課題があるという。
その3つのジレンマとは以下の通り。
- キャピタルゲインは名目値で購買力の変化を反映していない
- この問題は、キャピタルゲインを実質化することにより解決できる。
- ソロー=スワンの成長モデル*1では、貯蓄が大規模かつ新規の資本ストックを生み出し、それが成長に寄与する
- キャピタルゲイン税との関係で言えば、値上がり株を売って消費に充てるならば課税すべきだが、再投資に充てるならば課税すべきでない、ということになる。
- 上記の第二のジレンマは、三番目のジレンマにつながる:賢い投資を繰り返した投資家は、巨大な富を蓄積し、巨大な富は過度の政治的影響力をもたらす
- これは特に悩ましい問題。
また、1つの実務上の問題とは、キャピタルゲインの法定税率が実効税率と大きく乖離し得る、という問題である:
今、キャピタルゲインの法定税率を20%と置く。配当を伴わない投資が年率10%で成長する場合、100ドルの投資は10年後には259.37ドルとなる。そこで売却すると、キャピタルゲイン税は$159.37*.2=$31.87となり、課税後の手取りは227.50ドルとなる。そのため、内部収益率は10%から8.6%に低下し、実効税率は20%ではなく14%となる。
この話を一般式で表わすと以下のようになる。
実効税率=100 - [ { ( (1+g)^Y-1 )*0.8 + 1 }^(1/Y) - 1]/g*100
(ただしYは経過年数、gは(%でなく実数表示の)年率成長率)
また、g=1%、5%、10%、20%、30%、Y=1〜100年について実効税率のグラフを描画すると、以下のようになる。
これを見ると、投資期間が短ければ実効税率も法定税率の20%に近くなるが、投資期間が長くなると低下していき、年率成長率が10%の場合は20年でおよそ半分の10%程度となる。従って、キャピタルゲインの税率が高くなると投資家が投資期間を長期化して実効税率を低めるのはほぼ確実である、とグリーンは指摘する。
彼はエントリを
When it comes to figuring out tax policy, nothing is easy.
(適切な税政策を見い出すに当たっては、簡単なことは一つも無い)
と結んでいる。