ジェフリー・サックスの地獄への道?

ミレニアム・ビレッジ・プロジェクト(MVP)の成果を誇ったジェフリー・サックスらの報告論文に、基礎的な計数誤りがあると世銀ブログで指摘されているEconAcademics blog aggregator for economics research経由のDevelopment Therapy: Chapter II : Is Jeffrey Sachs in a highway to hell?経由)。


その指摘内容は以下の図に集約される。

左側の赤い棒線グラフがサックスらのデータで、MVPが適用された地域では5歳以下の幼児死亡率が年率7.8%減少した、と報告している。対象国の地方ベースの平均トレンドは2.6%の減少なので、これを見る限り、幼児死亡率に関してMVPは平均を大きく上回る成果を上げたことになる。


一方、右側の青い棒線グラフが世銀ブログのGabriel Demombynesによる修正後の数字で、MVPの減少率は5.9%に留まる。それに対し、全国ベースの平均トレンドは6.4%の減少なので、MVP地域はむしろ平均より劣っていたことになる。


どうしてこのような違いが生じたのだろうか? Demombynesは論文における以下の2つのミスを挙げている。

  1. 年率計算の誤り*1
  2. 比較対象の期間設定の誤り


第一の誤りについては、Demombynesは以下のように図で示している。

即ち、MVP適用前の5年間のデータと適用後の3年間のデータを比較するのであるから、各集計期間の中間時点の差である4年という年数を用いて年率化しなければならないところを、3年で年率化したため、MVPの成果を過大評価することになってしまった、とのことである。


第二の誤りは、比較対象のトレンド平均として、MVP開始前の2006年以前のデータを用いたことにある、とDemombynesは指摘する。実際にはトレンド平均も2006年以降に大きく改善しているので、その期間のデータを使用しないと適切な比較にならない、というわけである。しかも、上図の青線グラフでDemombynesが示したのは全国ベースのトレンドだが、データが利用可能な国を見る限り、地方ベースのトレンドの改善幅はさらに大きいという。



サックスと言えば、最終的にジム・ヨン・キム氏が選出された世銀総裁に立候補したことで最近話題になったが、その世銀のブログで自らが力瘤を入れているプロジェクトの“成果”が批判されているのも皮肉な気がする*2

*1:こちらのブログでは高校生レベルの誤りと評している。

*2:しかも、ブログの記述を読む限り、そうした“成果”報告の問題点に対する指摘は今に始まったことでは無いようである。