というNBER論文をケイシー・マリガンらが上げている。原題は「Non-Covid Excess Deaths, 2020-21: Collateral Damage of Policy Choices?」で、著者はCasey B. Mulligan(シカゴ大)、Robert D. Arnott(Research Affiliates LLC*1)。
以下はその要旨。
From April 2020 through at least the end of 2021, Americans died from non-Covid causes at an average annual rate 97,000 in excess of previous trends. Hypertension and heart disease deaths combined were elevated 32,000. Diabetes or obesity, drug-induced causes, and alcohol-induced causes were each elevated 12,000 to 15,000 above previous (upward) trends. Drug deaths especially followed an alarming trend, only to significantly exceed it during the pandemic to reach 108,000 for calendar year 2021. Homicide and motor-vehicle fatalities combined were elevated almost 10,000. Various other causes combined to add 18,000. While Covid deaths overwhelmingly afflict senior citizens, absolute numbers of non-Covid excess deaths are similar for each of the 18-44, 45-64, and over-65 age groups, with essentially no aggregate excess deaths of children. Mortality from all causes during the pandemic was elevated 26 percent for working-age adults (18-64), as compared to 18 percent for the elderly. Other data on drug addictions, non-fatal shootings, weight gain, and cancer screenings point to a historic, yet largely unacknowledged, health emergency.
(拙訳)
2020年4月から少なくとも2021年末まで、米国では年率97,000人のコロナ以外の原因による従来のトレンドを上回る超過死亡があった。高血圧と心疾患による死は合わせて32,000増加した。糖尿病もしくは肥満、ドラッグに起因、アルコールに起因する死はそれぞれ従来の(上昇傾向の)トレンドを12,000ないし15,000上回った。ドラッグによる死は特に警戒すべきトレンドを辿っていたが、コロナ禍の中の2021年暦年にはそのトレンドを有意に超過して108,000に達した。殺人と交通事故死は合わせて10,000近く上昇した。その他の様々な原因は合わせて18,000増加した。コロナによる死は高齢者に集中したが、コロナ以外の死の絶対数は、18-44、45-64、および65歳以上の集団で同様であり、子供では全体的な超過死亡は無かった。コロナ禍の期間中のすべての原因による死亡率は労働年齢の成人(18-64)で26%上昇し、高齢者では18%上昇した。薬物中毒、死に至らない銃撃、体重増加、およびがん検診に関する他のデータは、歴史的だがあまり認識されていない健康上の緊急事態を指し示している。
論文では、コロナ以外の死によって失われた統計的生命価値を1兆ドルと見積もっている。また、表題にある政策との関連については結論部で以下のように書いている。
Given the pre-pandemic health situation, we find it especially notable that non-Covid health outcomes were not more closely monitored to, among other things, determine whether public or private Covid policies were aggravating them. Critics will likely suggest that the public policy choices did not lead to the large number of non-Covid excess deaths, that these excess deaths were a consequence of personal choices, driven by fear or boredom. We do not disagree that this may be a key driver of excess non-Covid deaths. But, we would point out that this is no excuse for ignoring this soaring death toll, or pushing an examination of these deaths to the back burner.
(拙訳)
コロナ禍以前の健康の状態に鑑みると、公的ないし民間のコロナ政策がそれを悪化させていないかどうかを決める上で、何にも増してコロナ以外の健康の状況がもっときちんとモニタされていなかったことは特に注目に値することを我々は見い出した。批判者は、公的政策の選択は多数のコロナ以外の超過死亡をもたらしてはおらず、そうした超過死亡は恐怖や倦怠に駆られた個人的選択の帰結である、と言うだろう。それがコロナ以外の超過死亡の主因であった可能性を我々は否定しない。しかし、それが、死者のこのような急増を無視したり、それらの死の検証を後回しにする言い訳にはならないことは指摘しておきたい。
この後マリガンは、スウェーデンのコロナ以外の超過死亡がマイナスだったことを指摘し、市民の日常生活をなるべく乱さないことがその結果に関連しているのであろう、と述べている。ちなみにマリガンはここで紹介した論文でも、コロナ禍における学校閉鎖やリモートワークや通常診療のキャンセルといった対策に疑問を呈している。また、こちらで紹介されている研究では、刺激策による可処分所得の増加がアルコールやドラッグの摂取の増加につながった可能性を指摘している。
以下は結果をまとめた論文の表3(2020/4 - 2021/12、18歳以上)。
原因 | 超過死亡(年率、1000人) | ベースライン(年率、1000人) | ベースライン超過% | 超過死亡に占める高齢者% |
---|---|---|---|---|
循環器系統の病気 | 32 | 892 | 4% | 66% |
糖尿病もしくは肥満 | 15 | 153 | 10% | 60% |
ドラッグに起因 | 12 | 93 | 13% | 0% |
アルコールに起因 | 12 | 41 | 28% | 16% |
殺人 | 5 | 19 | 27% | 2% |
交通事故 | 4 | 37 | 11% | -16% |
その他すべて | 18 | 1660 | 1% | 22% |
合計 | 97 | 2895 | 3% | 36% |
上記から除かれた計測されていない可能性のあるコロナ | 41 | 74% |
以下はコロナ以外の死亡者の変化をトレンドと超過死亡に要因分解した論文の表4(年率、1000人)。
原因 | トレンド | 超過 | 計 |
---|---|---|---|
循環器系統の病気 | -9 | 32 | 23 |
糖尿病もしくは肥満 | 7 | 15 | 22 |
ドラッグに起因 | 10 | 12 | 22 |
アルコールに起因 | 2 | 12 | 13 |
殺人 | 0 | 5 | 5 |
交通事故 | 0 | 4 | 4 |
その他すべての非コロナ | -7 | 18 | 11 |
合計 | 3 | 97 | 100 |
日本でも今年に入ってからのコロナ以外の死者の急増が話題になったが、同様の原因究明が待たれるところである。