波が風を消す・その247・補足

昨日のエントリに関して、ツイッターで(直接小生宛てではないが)以下のようなコメントを頂いた。


これを読むと、本来はサムナーはlast moverとしてのFRBの機能を重視しているのに、小生が勝手にサムナーに金融万能主義というレッテルを貼ったように思われかねないので、以下に小生がそう表現した根拠を列挙しておく。

12. Don’t we need both monetary and fiscal stimulus?
No. Monetary stimulus can make NGDP grow as fast as you like, as we saw in Zimbabwe. Once the Fed has set monetary policy at the level expected to produce on target growth, then there is no role for fiscal stimulus, it can only make things worse.
(拙訳*1
12. 金融による刺激と財政による刺激の両方が必要なのでは?
いいや。金融刺激は名目GDPをお好みの速度で成長させることを可能にする。たとえばジンバブエを見よ。いったんFRBが目標成長率を生み出すと期待される水準に金融政策をセットしたら、財政政策の出番は無い。そこで財政を持ち出すと、却って事態を悪くする。

  • 昨日紹介したエントリで、財政政策と金融政策の違いは財政政策が直接支出先を指定するのに対し金融政策ではそれは銀行に任せるというくらいではないか、というコメントへのサムナーの反応

orionorbit, You are missing a huge distinction. The Fed creates new money, whereas the Congress moves around money that already exists (via taxes or borrowing.)

Money creation is far more expnasionary in normal times.

At zero rates it’s much harder to evaluate money creation, it depends whether it’s expected to be temporary or permanent. I agree that temporary money creation has little effect (indeed even if you aren’t in a liquidity trap, it has little effect.)
(拙訳)
orionbit[該当のコメンター]、貴君は重大な違いを見落としている。FRBは新規に貨幣を創造するが、議会は既存の貨幣を(税や借り入れを通じて)右から左に動かすだけだ。
ゼロ金利下では、貨幣創造の効果を見積もることはかなり難しくなる。というのは、それが一時的なものか、それとも恒久的なものかによって違ってくるからだ。一時的な貨幣の創出に効果があまり無いことには同意する(実際のところ、流動性の罠に陥っていなくても、それは効果に乏しい)。

  • そのエントリでの別のコメンターとのやり取り:

コメンターK
・・・
I know you think the fed is omnipotent. We all know that. But I don’t believe that and I think the Fed doesn’t believe that either. But they are never going to come out and tell you that, right? You do see that that wouldn’t help them? So lets stop taking whatever the fed *says* they can do as some kind of evidence for what they can or cannot achieve.
(拙訳)
・・・
あなたがFRBは万能だと考えていることは知っている。それは周知の話だ。しかし私はそう信じていないし、FRBもそう信じていないと思う。しかし彼らはそのことをカミングアウトしてあなたにぶっちゃけたりはしないんだよ。そういう行動が彼らの利益にならないことはあなたにも分かるでしょ? だからFRBが自分たちができると言うこと何でもかんでもを、彼らの達成できるないしできないことについての証拠として受け止めるのはやめにしたら?


サムナー
K, Bernanke believed monetary policy was all powerful when he was an academic. You think he was making it up then, before he had any political reason to lie? He and I did almost the exact same research on the Great Depression, and we saw how powerful monetary policy was. His academic writings make 100% sense to me. It was my conclusion too. Why in the world would you want me to assume he’s suddenly started lying about things he’s believed his entire adult life? I don’t get it.
(拙訳)
K、バーナンキは学者時代には金融政策が全能だと信じていた。彼が政治的理由で嘘を吐く必要がまだ無かったその時代に、彼が作り話をしていたと思うのかい? 彼と私は大恐慌についてほぼ同様の研究を行って、金融政策がいかに強力かを知った。彼の学術論文は私にとって100%合点がいくものだ。それは、私自身の到達した結論でもあるのだ。彼が成人時代を通じて信じてきたことに関し、突然彼が嘘を吐き始めたなどとどうして私に想定させたいのかね? 私には理解不能だ。


このようにサムナーは、金融政策を重視する理由として、その力そのものを強調している。確かにここここここなどの以前のエントリではlast moverという点にも触れてはいるが、それはあくまでもその力を背景にしたものだというのが彼の主張の特色になっている。その点を分離して区別しようとすることが彼の主張を正しく捉える上で有益かどうかは、正直なところ疑問なしとしない*2

*1:以前のエントリより;この訳の後に該当ページに手が入っているので、連番がずれている。

*2:ちなみに、このエントリの脚注で触れたように、last moverという点を主に強調するのはタイラー・コーエン。サムナーがその言葉を用いる際も、それはコーエンの言だという断りを添えることが多い。