このWCIブログエントリのコメント欄でNick Roweが提示した簡単なモデルがフリードマン・ルールとテイラー・ルールの関係について興味深い洞察を提供しているように思われるので、以下に紹介しておく。
モデルは単純で、以下の2つの式からなる。
- インフレ率 = −B(f)×r + 平均予想インフレ率
- 平均予想インフレ率 = f×直前のインフレ率 + (1-f)×合理的予想インフレ率
ここでfは合理的な価格形成を行わない人の割合であり、B(f)はfの減少関数(B(f)=1/fなど)である。また、rは名目金利である*1。
これをインフレ率=合理的予想インフレ率という合理的期待の仮定を置いて解くと、インフレ率について以下の結果が得られる。
インフレ率 = −(B(f)/f)×r + 直前のインフレ率
ここでfがゼロに近い場合、すなわちほぼ全員が合理的な場合は、名目金利がゼロにならないとインフレ率は直ちにデフレ方向に発散してしまう。Roweはこうしたモデルを"fragile in the limit"――極限(今の場合はf→0)で脆弱――と呼び、使えないモデルの例としている*2。
しかし別の見方をすれば、この脆弱性は、合理的人間が多数派になると名目金利は嫌でもゼロにならざるを得ない、というフリードマン・ルールの成立条件を示しているようにも思われる。そう考えると、このモデルはインフレ率について解くのではなく、以下のように名目金利について解くのが良いように思われる*3。
r = (f/B(f))×(直前のインフレ率−インフレ率)
この式からは、以下の洞察が得られる:
- fがゼロに近いと(=合理的人間が大多数を占めると)、rは(B(f)=1/fとするとfの2次のオーダーで)ゼロに近づく。【フリードマン・ルール】
- fがゼロより大きくなると、名目金利は、直前のインフレ率が合理的予想インフレ率からどれだけ乖離しているかで決まる。【テイラー・ルール[ないしその原初的形態]】
*1:実際のRoweのモデルではrは実質金利で、上の2式に加えてフィッシャー関係式(実質金利=名目金利−平均予想インフレ率)が提示されていたが、その前提では綺麗な解が得られないため、ここでは名目金利に置き換えてある。
*2:ここで彼が特に批判対象にしているのは、(上では割愛したフィッシャー関係式における)名目金利が上昇すると(実質金利は安定的なので)インフレ率が同じだけ上がる、という含意である。
*3:そう考えると、Roweが批判した名目金利からインフレ率への因果関係は、モデルそのものの問題ではなく、そのモデルでインフレ率を名目金利の関数として捉えようとしたことにあった、と言えるように思われる。