インフレ率=失業率版のIS曲線とフィリップス曲線

クルーグマン11/2ブログポスト邦訳)について、Nick Rowe解説を試みている

上図はクルーグマンがブログで示した2つの図を合成したものである*1


赤線は、各インフレ率について対応する失業率を与える曲線である。クルーグマンはこれを天下り式に示しているが、RoweはこれはIS曲線である、と解説している。というのは、通常のIS曲線は実質金利と生産の関係を示すものだが、失業率は生産と逆相関し、名目金利が一定の場合に実質金利がインフレ率と逆相関するので、名目金利がゼロ下限に張り付いた状況下では、インフレ率と失業率の関係もIS曲線の変形と見做せるからである。


一方、青線は通常のフィリップス曲線であり、失業率に対応するインフレ率を与える*2


この2つの曲線を所与とすると、仮にインフレ目標を当初2%と置き、人々がそれを信じたとしても、茶色の矢印に示した通り、その後どんどん高失業率かつ低インフレの悪い均衡の方に落ち込んでいってしまう。これが、クルーグマンインフレ目標を(4%など)高く置かねばならないと考える理由である。


図から明らかな通り、クルーグマンのこの話の前提は、IS曲線の傾きがフィリップス曲線よりも急であることである。Rowe自身は、これは違うのではないか、即ち、IS曲線は現在の悪い均衡付近ではフィリップス曲線よりフラットなので、悪い均衡は不安定なのではないか、とエントリの最後にコメントしている。

*1:常連コメンターのKevin DonoghueがRoweにメールした図。Rowe自身は最初の投稿時にもっと模式的な図を描いていたが、追記でクルーグマンの描いたものにより近いこの図を併載している。なお、収束を示す茶色の矢印は小生が追加した。

*2:ちなみにクルーグマンはこのフィリップス曲線は最初の曲線に対しreserve relationshipである、と書いているが、これはreverse relationshipのtypoではないか、と複数のコメンターに指摘されている。