フリードマンありせばQE3を提言したか?

フリードマンならば現在の状況で金融緩和を提案したかどうかという論争が昨年の9月にテイラーとサムナーの間で交わされたが、今度はデロングが、フリードマンならば連続的な量的緩和を提言しただろう、とJim Grantとの議論で述べた。それを受けてベックワースが、ならばフリードマン自身に語ってもらおう、ということで2000年のカナダ銀行での講演の質疑応答から以下の箇所を引用している*1

David Laidler: Many commentators are claiming that, in Japan, with short interest rates essentially at zero, monetary policy is as expansionary as it can get, but has had no stimulative effect on the economy. Do you have a view on this issue?


Milton Friedman: Yes, indeed. As far as Japan is concerned, the situation is very clear. And it’s a good example. I’m glad you brought it up, because it shows how unreliable interest rates can be as an indicator of appropriate monetary policy.


During the 1970s, you had the bubble period. Monetary growth was very high. There was a so-called speculative bubble in the stock market. In 1989, the Bank of Japan stepped on the brakes very hard and brought money supply down to negative rates for a while. The stock market broke. The economy went into a recession, and it’s been in a state of quasi recession ever since. Monetary growth has been too low. Now, the Bank of Japan’s argument is, “Oh well, we’ve got the interest rate down to zero; what more can we do?”


It’s very simple. They can buy long-term government securities, and they can keep buying them and providing high-powered money until the high powered money starts getting the economy in an expansion. What Japan needs is a more expansive domestic monetary policy.


The Japanese bank has supposedly had, until very recently, a zero interest rate policy. Yet that zero interest rate policy was evidence of an extremely tight monetary policy. Essentially, you had deflation. The real interest rate was positive; it was not negative. What you needed in Japan was more liquidity.


(拙訳)

デビッド・レイドラー(([asin
4495435817:title=この本]の著者と思われる。)):多くのコメンテーターが、日本では短期金利は事実上ゼロになっているので、金融政策は限界まで拡張的になっているが、経済への刺激効果は無かった、と主張しています。この件について何かご意見はお持ちですか?
ミルトン・フリードマン
ええ、持っています。日本について言えば、状況は明確です。そして良い見本でもあります。この件は、金利が適切な金融政策を行う上での指標としていかに当てにならないかを良く示してるので、話として取り上げて頂いたことに感謝します。

1970年代*2、バブル期がありました。通貨は急速に増大しました。株式市場にはいわゆる投機バブルもありました。1989年、日本銀行は非常に強くブレーキを踏み、通貨供給の伸び率をしばらくマイナスにしました。株式市場は崩壊し、経済は不況に陥りました。そして日本はそれ以来ずっと準不況の状態にあるのです。通貨供給の伸びが低過ぎました。それに対し日本銀行は、「とにかく、我々は金利をゼロにまで引き下げました。それ以上我々に何ができましょうか?」と言っています。

事は極めて単純なのです。彼らは長期国債を買うことができ、ハイパワードマネーが経済を上向かせるまで、長期国債を買い続けてハイパワードマネーを供給することができます。日本に必要なのは、もっと拡張的な国内金融政策なのです。

日銀は、つい最近までゼロ金利政策を採っていた、とされています。しかし、そのゼロ金利政策というのは極めて引き締め気味の金融政策の証なのです。基本的に、日本はデフレ下にあり、実質金利はマイナスではなくプラスでした。日本に必要だったのはもっと多くの流動性だったのです。

低い金利は金融引き締めの表れ、というのは、この講演の3年前にもフリードマンWSJ論説に書いており、最近ではサムナーが良く引用するところでもある。今回、その論説以外の場でもフリードマンがその話に言及していた、というのは小生にとって新たな発見であった。


ベックワース自身は、フリードマンならば、QE2、QE3、…といった逐次的なやり方――こうしたやり方は前のラウンドが失敗に終わったような印象を与えてしまう――よりは、もっとシステマティックな方法を好んだだろう、と推測している。そして、冒頭で触れたテイラー=サムナー論争でサムナーが持ち出したフリードマンサーモスタット論説を基に、彼ならば名目GDP水準目標を支持したのではないか、と些か我田引水的なことも述べている。ちなみにデロングはこのベックワースの見解に全面降伏し、確かに逐次的なやり方はフリードマンに蕁麻疹を引き起こしただろう、と書いている。

*1:以下の引用では元の資料と段落の順番が変わっているが、ここではベックワースの意図を尊重して彼の順番を踏襲している。

*2:1980年代の誤り?