米国内の人口シフトの背景

12/30エントリの脚注で触れたように、ここ10年で人口が増加した州について、マンキューとライアン・アベントの間で軽い鞘当てがあった。


まず、マンキューがAEI記事から以下の一節を引用した

[Population] growth tends to be stronger where taxes are lower. Seven of the nine states that do not levy an income tax grew faster than the national average [over the past 10 years]. The other two, South Dakota and New Hampshire, had the fastest growth in their regions, the Midwest and New England. Altogether, 35 percent of the nation's total population growth occurred in these nine non-taxing states, which accounted for just 19 percent of total population at the beginning of the decade.
(拙訳)
(人口の)伸びは税金の低いところで高い傾向が見られた。所得税の無い9つの州のうち、7州で(過去10年の)伸びが全国平均を上回った。残りの2州のサウスダコタニューハンプシャーは、ミッドウェストとニューイングランドという各地域内で最も高い伸びを示した。全体で見ると、全国の人口の増加のうち35%がそれら税金の無い9州で生じた。それらの州が10年前に全国人口に占めていた割合は、19%に過ぎなかった。


それに対し、ライアン・アベントがEconomistのFree Exchangeで以下のような反論を行なった

Of course, 30 percentage points of that 35% occured in just three states: Florida, Texas, and Nevada. And research from Mr Mankiw's colleague, respected urban economist Ed Glaeser, indicates that diverging growth patterns often have as much to do with supply issues as demand:

This paper assesses the relative contributions of rising productivity, rising demand for Southern amenities and increases in housing supply to the growth of warm areas, using data on income, housing price and population growth. Before 1980, economic productivity increased significantly in warmer areas and drove the population growth in those places. Since 1980, productivity growth has been more modest, but housing supply growth has been enormous. We infer that new construction in warm regions represents a growth in supply, rather than demand, from the fact that prices are generally falling relative to the rest of the country. The relatively slow pace of housing price growth in the Sunbelt, relative to the rest of the country and relative to income growth, also implies that there has been no increase in the willingness to pay for sun-related amenities. As such, it seems that the growth of the Sunbelt has little to do with the sun.

The statement that low taxes drive population growth boils down to the idea that lower taxes in a state increase the demand for that state; you can essentially substitute "low taxes" for "sun-related amenities" and arrive at a similar conclusion. Increased demand for a place can translate into rising population or rising prices, depending on the response of the local housing supply. So the statement that population rose in one place and didn't in another doesn't tell us whether demand for one place is stronger than another.
(拙訳)
もちろん、その35%のうち30%はわずか3つの州で起きた。フロリダ、テキサス、ネバダだ。そしてマンキューの(ハーバードでの)同僚にして、都市経済学者として名声の高いEd Glaeserの研究によると、人口の成長パターンの差は、需要とおなじくらい供給にも左右されるとのことだ:

本論文では、所得、住宅価格、人口増加のデータを用いて、温暖な地域の人口成長に対する、生産性、南部の快適性への需要の増加、住宅供給の増加の相対的寄与度を評価した。1980年以前は、温暖な地域における経済的生産性が顕著に上昇し、それが人口増加を促した。1980年以降は、生産性上昇は落ち着き、代わって住宅供給が大きく伸びた。我々は、国の他の地域に比べ価格は全般的に低下しているという事実から、温暖な地域における新規着工は、需要ではなく供給の増加を反映したものと推測した。サンベルト地帯での住宅価格の上昇が、他の地域の傾向や所得の伸びに鑑みて比較的緩やかなものに留まったということは、日照に関する快適さにもっと対価を払おうという傾向が存在しなかったことも意味する。従って、サンベルト地帯の人口の伸びは、太陽とはあまり関係が無かったようである。

低い税金が人口増加を促すという話は、税金の低い州に対する需要が増加する、という考えに帰着する。「低い税金」を「日照に関する快適さ」に置き換えても、基本的な結論は同じだ。その地域に対する需要の増加は、それに住宅供給がどう反応するかによって、人口増加もしくは価格上昇のどちらかにつながる。従って、ある地域で人口が増加し、別の地域で人口が増加しなかったことは、前者への需要が後者への需要より大きかったことを必ずしも意味しない。


一方、当のGlaeserが、上記のやり取りの少し後に、今回の人口シフトの背景についてEconomixで解説している。その概要は以下の通り。

  • これらのサンベルト地帯で人口が伸びている理由としては、気候的なものと商業的なもの(税金の安さや規制の少なさが企業を惹きつける)という2つが挙げられる*1
  • しかし、それらの州の一人当たり生産や家計所得は、コネチカットマサチューセッツやニューヨークといった人口の伸びの低い州に比べてむしろ劣っている。従って、それらの州が一段の経済的成功を収めたことによって人口が増えたわけでは無さそうである。
  • では、気候のお蔭だろうか? だが、ヒューストンの人口の伸びは高いが、そこは一年のうち99日も気温が90度(=摂氏32.2度)以上に達する。
  • 経済学者は、株におけるのと同様、都市においてもフリーランチは無い、ということを強調する。従って、住むのに快適な都市があれば、住居の値段も高いはず、というわけだ。実際、2010年第3四半期時点のサンノゼの住宅価格は中位値で63万ドルである。
  • だが、テキサスやジョージアの住宅価格は高くもなく、上昇もしていない。ヒューストンの住宅価格は15.9万ドルであり、アトランタは11.3万ドルである。それに対し、ニューヨークは47万ドル、ボストンは36.7万ドルである。
  • これらの地域での住宅価格の安さは、住宅供給が豊富で、かつ、需要感応度が高いことによる。その理由は、土地では無い。ヒューストン周辺部のハリス郡の人口密度は、ニューヨークのウェストチェスター郡より高い。
  • これらの地域の住宅供給の豊富さは、住宅建築や土地利用に関する規制の緩さによることが、数多くの研究によって明らかとなっている。従って、規制緩和論者の見解はある意味で正しかった。彼らが間違っていたのは、対象とした規制であった*2

*1:ここでGlaeserは、商業的な理由を挙げる論者を布教活動的な匂い(proselytizing undertone)がする、と揶揄している。

*2:ここでGlaeserは、アベントが引用した論文のほか、AEIが出版した本に寄せた論説記事にリンクしている。また、Glaeserの言う規制緩和論者の代表格であるマンキューは、この記事の最後の部分を引用したエントリを立てている