クルーグマンがアイルランドとネバダ州を比較している。それによると、両者の共通点は
- 人口は似たようなもの*1
- 住宅バブルはその極端さにおいて両者でほぼ同等だった
- 失業率は共に約14%
一方の相違点は
- 同一通貨圏内の別の地域への移転が安全弁として機能する点は同じだが、実際には、アイルランド人が欧州の中でも極めて移動性の高い人々であることを考慮に入れても、好況期にネバダ州に流入した労働者*2ほど簡単に動くわけではない。
- また、ネバダ州は実質的に連邦政府から銀行救済を受けた、と言える。それは、FDICによるものほど直接的なものではないが(それも多少はあったが)、ファニーとフレディによる救済である。というのは、ネバダ州の人口は全米の1%未満だが、ファニーとフレディの損失の5%以上を占めるからである。そうした損失はネバダ州の納税者だけではなく、全米の納税者が負担することになる。
これはまさに最適通貨圏の実例である、とクルーグマンは結論付けている。
なお、このエントリでは触れていないが、クルーグマンは独自通貨を維持したアイスランドを成功例として常々称揚している。ちなみにWikipediaによるとアイスランドの人口は30万人強であるが、これは東京都23区の中規模の区の人口に相当する。こちらのランキングによると23区の中で最も財政力が劣るのは荒川区(23区の中で唯一財政力指数が0.3を切っている)とのことなので、クルーグマンのアイルランドとネバダ州の比較の伝で行けば、アイスランドと荒川区の比較を考えてみるのも面白いかもしれない(こちらの人口の変遷を見ると、荒川区の人口は1960年に30万人近くに達しているが、現在は20万人以下に落ち込んでいる。これも最適通貨圏の実例と言えるかもしれない)。
*1:Wikipediaによるとネバダ州が270万人(2010年)、アイルランドが450万人(2008年)なのでネバダ州はアイルランドの6割ということになる。
*2:EconomixでEdward L. GlaeserがリンクしたセンサスHPで報告されているように、ネバダ州はこの10年間で全米で最も人口の伸び率が高かった(35.1%)。なお、このGlaeser記事にはマンキューもリンクしているが、その少し前に、そうした人口の伸びの要因が税率の低さにあるというAEI記事を引用したマンキューをライアン・アベントが批判する、ということがあった。穿った見方をすれば、クルーグマンもその件が念頭にあり、このブログエントリで遠回しにマンキューを当てこすっているのかもしれない。