慈善事業への寄付の税控除もいらない

昨日のエントリの最後で、マンキューが個人的には慈善事業への寄付の税控除を支持していることを紹介したが、折りよくリチャード・セイラーがそれをテーマにした論説をNYTに書いた

そこでセイラーは、

First, some basics. If there is one thing that most economists agree about in the realm of tax policy, it is that it’s best to broaden the base of any tax, all else being equal. That means minimizing the number of deductions and exclusions from taxable income in order to lower marginal rates and reduce distortions. N. Gregory Mankiw made this case powerfully in this space recently, and President Obama and the Bowles-Simpson fiscal commission have taken up the cause as well.
(拙訳)
まず、基本的な点を幾つか。もし税政策の分野でほとんどの経済学者が合意することがあるとしたら、他の条件が同じならば、いかなる税についても徴収基盤を広げるのが良い、ということである。それは、課税所得に対する控除や免税の数を最小限に留め、それによって限界税率を下げて課税による歪みを減らすということを意味する。N・グレゴリー・マンキューは最近この欄でそのことを力強く訴え、そしてオバマ大統領とボウルズ=シンプソン財政委員会もその問題を取り上げた。

と述べ、昨日紹介したようなtax expenditureを減らすという方向性を経済学者の総意として賛成している。

その上で、現在の米国の慈善事業への寄付の税控除について、以下の問題点を挙げている。

  • 概算控除(Standard deduction)ではなく項目別控除(Itemized deduction)を行った場合のみ控除できる*1。しかし、一般家計で項目控除が意味を持つのは、その家計が大きな住宅ローンを抱えてその利息を控除するような場合である。しかし、ただでさえ住宅ローン金利の控除が経済に歪みをもたらしているのに、多額の住宅ローンを持つ人の寄付の方が優遇されるというのは、その歪みに拍車を掛けることになる。
  • 課税所得からの控除ということは、富裕層からの寄付を貧困層からの寄付より優遇していることになる。


そして、その解消策として、以下の3つを提案している。

  1. 寄付に対する政府補助を一律にするため、所得控除(deduction from income)ではなく、税額減免(tax credit)の形を取るようにする。例えば1000ドル寄付した場合、補助率を15%とするならば、税金を150ドル減額する(理想的には、減額した結果マイナスになれば、むしろ払い戻すようにする)。
  2. 税制の簡素化のため、税額減免を適用するのは一定額以上の寄付に限定する。その一定額とは、例えば調整総所得の2%とする。そうすれば、煩わしい帳簿を付けるのは多額の寄付者だけで済む。
  3. 税額減免のレートは、経済に大きな歪みをもたらすのを防ぐため、低い水準に留める。もし政治的理由でそうした補助をまったく止めてしまうわけにはいかないと言うならば、キャピタルゲイン税率と同じ15%にするのが良かろう。

セイラーは、ただし相続税に関する寄付の控除は現行を維持するのが良い、とも述べている。というのは、所得からの寄付は別に所得を減らすわけではないので控除の必要性は乏しいが、遺産からの寄付は遺産を減らすから、とのことである。


これに対しマンキューは、以下のような異論をブログで述べている

  • マンキュー自身は税金の基盤としては所得よりも消費の方が良いと考えている。その考えに立てば、個人退職年金や401k積み立てや寄付のような消費されない所得も控除対象にするのは理に適っている。
  • 寄付も消費の一つの形、という意見もあるかもしれない。寄付というのもあくまでも自発的なものであり、やるからには何らかの効用があるはずだ、というわけだ。しかし、やはり大きな家や速い車を買うのとは根本的に違う、と思われる。もっともそう思うのは経済学者としての自分ではなくピューリタンとしての自分かもしれないが。


また、Economist's ViewのMark Thomaは、現在民間が行っている各種慈善事業を政府が簡単に肩代わりすると期待できない以上、そうした税制の変化が寄付額にもたらす影響が心配だ、と懸念している

*1:両控除についての日本語の説明は例えばここを参照。