予想PERと実績PER

昨日のエントリではPERを取り上げたが、データの制約により実績PERについてのみ論じた。ただ、実際の証券分析では予想PERを用いることが多い。その理由の一つは、一番単純な株価モデルでは、株価は将来の利益の割引現在価値だからである。
具体的には、利益Eが永続的に続き、それが毎期株主に帰属するものとすると、割引率をkとして、株価Pは
  P = E/(1+k) + E/(1+k)2 + E/(1+k)3 + E/(1+k)4 + ・・・ = E/k
として表される*1。この場合、P/Eは割引率の逆数となる。
この考え方からいくと、Eとして使用するのはなるべくその企業の長期に亘る平均的な利益が望ましく、一時的な要因で上下に振れた利益はあまり相応しくないことになる。経営環境が比較的安定している時期ならば直近の利益もその要件を満たすと思われるが、実績の利益が様々な一時的要因で左右されやすい時期には、むしろ予想利益の方が企業の長期的な実態に近い場合が多いと考えられる。


とは言え、予想PERはデータの入手が難しい。しかし、たまたまタイミング良くFT Alphavilleの8/25エントリで1988年以降の日本の予想PERの推移を掲載していたので、以下に紹介しておく。

出所はEvolution Securitiesという証券会社のPhilip Isherwoodストラテジストのレポートとのことである。ただ、図中にデータソースがIBESの12ヶ月コンセンサス予想とある以外には、データの詳細は不明である*2


この図には実績PERで見られた2000年前後の極端な振れはなく、バブル崩壊後は概ね緩やかな低下傾向を示している。
また、図には債券利回りを益回り(=PERの逆数)で割ったbond earnings yield ratioも併せて表示されているが、上式の割引率kを債券利回りと考えれば、これが1より大きければ株価が割高であり、1より小さければ株価が割安であることになる*3。上図でこの比率が1を切ったのは凡そ1997年頃であり、齊藤氏の表現を借りれば、この時に株価は「落ちきった」ことになる。その後、2000年前後を含め、現在に至るまでこの比率が1を超えたことは無い。



ちなみにIsherwoodはこの図に関して以下のようなことを述べている。

  • 1989年のピーク時の実績PERは60倍だったが、予想PERは40倍だった。
  • 1994年*4の収益の低下により予想PERは75倍まで高まった。
  • 予想PERは2008年10月に10倍まで低下した後、現在は13.5倍となっている。

さらにIsherwoodはEU・英・米のPERの図も示し、それぞれ現在は10.4倍、9.8倍、12.8倍となっているので、取りあえず会計基準を無視して比較すれば、日本株よりさらに割安になっている、と論じている。

*1:cf. このエントリ

*2:ただし、トムソンロイターの日本語のIBESの紹介ページには東証一部のコンセンサス予想の集計値に関するレポートが掲載されていて、その2009/9/17レポートでは2009年度の予想PERが35.71、2010年度の予想PERが18.71と上図に比較的近い数字が記載されているので、上図のデータも東証一部対象の集計値と推測される。

*3:リンク先のinvestopediaは記述が逆。

*4:原文では1990/4となっていたが、図でPERがピークを付けたのは1994年なので、ここでは1994年の誤りと解釈した。