エキゾチックなリスクの無いファイナンス

というNBER論文をシュライファーらが上げているungated版*1。原題は「Finance Without Exotic Risk」で、著者はPedro Bordalo(オックスフォード大)、Nicola Gennaioli(ボッコーニ大)、Rafael La Porta(ブラウン大)、Andrei Shleifer(ハーバード大)。
以下はその要旨。

We address the joint hypothesis problem in cross-sectional asset pricing by using measured analyst expectations of earnings growth. We construct a firm-level measure of Expectations Based Returns (EBRs) that uses analyst forecast errors and revisions and shuts down any cross-sectional differences in required returns. We obtain three results. First, variation in EBRs accounts for a large chunk of cross-sectional return spreads in value, investment, size, and momentum factors. Second, time variation in these spreads is predictable, and proxied by predictable time variation in EBRs. This result holds even controlling for scaled price variables, which may capture time varying required return differentials. Third, firm characteristics typically viewed as capturing risk predict disappointment of expectations (and of EBRs). Overall, return spreads typically attributed to exotic risk factors are explained by predictable movements in non-rational expectations of firms’ earnings growth.
(拙訳)
我々は、測定されたアナリストの利益成長予想を用いて、資産価格のクロスセクションの結合仮説問題*2に取り組んだ。我々は、アナリスト予測の誤差と改定を用いて、要求リターンのクロスセクションの違いをすべて排除した、予想に基づくリターン(EBRs)の企業レベルの指標を構築した*3。我々は3つの結果を得た。第一に、EBRsの違いは、バリュー、投資、規模、およびモメンタムのファクターにおけるクロスセクションのリターンのスプレッドの大きな割合を説明する*4。第二に、それらのスプレッドの時系列変動は予測可能であり、EBRsの予測可能な時系列変動を代理変数にできる。この結果は、時変的な要求リターンの違いを捉えるであろうスケーリングした価格変数をコントロールした後でも成立する。第三に、リスクを捉えると通常見做されている企業特性は、予想(およびEBRs)の失望を予測する。総じて、通常はエキゾチックなリスクファクターに帰せられているリターンの違いは、企業の利益成長の非合理的な予想の予測可能な動きで説明される。

この研究もコクランのいわゆるファクター動物園*5を整理しようとする試みの一つと言えるかと思うが、アナリスト予想の誤差と改定に基づく指標を構築して従来のファクターを置き換えようとしたというのは、アナリスト予想の過剰反応でリターンを説明することを追究してきた著者たちの研究の一つの到達点と言えるかもしれない*6

*1:cf. 1年前に紹介した関連論文

*2:cf. 結合仮説問題 - Wikipedia

*3:本文では「We define EBR as the part of a firm’s realized stock return that is exclusively due to the forecast error and expectation revisions in Equation (4), while deliberately shutting down any cross-firm variation in risk, as captured by ri.」と説明している。

*4:本文によると、ファーマ=フレンチの3ファクターモデルのうちのHMLとSMB、5ファクターモデル(cf. Fama-French 5ファクターモデル | みずほ証券 ファイナンス用語集)の投資と収益性、Jegadeesh=Titmanのモメンタムを分析対象としており、収益性以外はEBRsでコントロールすると説明力を失う、とのことである。

*5:cf. リターンのクロスセクションを制約する一つのファクター - himaginary’s diary

*6:ちなみにアナリスト予想を使ったということで予想EPS×実績P/E - himaginary’s diaryで紹介した論文も参照しており、そこで取り上げられたアナリストが割引率を使っていないであろうという問題と自分たちの研究の有効性の関係についても言及している。