サムナー「日銀の量的緩和は大成功だった」

先月半ば、エコノミストが日銀の量的緩和について取り上げた溜池通信The Gucci Postでも取り上げられているほか、本石町日記さんもつぶやかれている)。そこでは当時の量的緩和政策の効果について否定的な見解が示されていると同時に、日銀エコノミストの白塚重典氏の研究が紹介されている。


この記事にスコット・サムナーが反応し、同記事が量的緩和の失敗の証拠とした以下のグラフを見て、「これはむしろ成功の証ではないか?」というブログエントリを書いた


サムナーの論旨は以下の通り。

  • 日銀は弱虫の集団ではない。彼らは「物価安定」を目標にし、まさにそれを手に入れた。2001年3月に開始された量的緩和は、すぐには物価下落を止めなかったものの、それは2001年の弱い経済と、それに対するCPIの反応ラグで説明できる。2001末に98に達したCPIは、その後6年間、上下ほぼ0.7%のレンジで推移した。これはまさに日銀が望んでいた物価の安定である。
  • 2006年には量的緩和は放棄されたが、それはもう必要なくなったと判断されたためである。実際、今日もCPIは98に留まっている。ちなみに1993年も98だった。2008年には2%の一時的上昇があったが、これは石油価格高騰によるものであり、現代のインフレ目標の基準から言えば、供給ショックによるものとして許容範囲内である。
  • ということで、2001年以降の8年間に亘る日本の物価の安定は、世界の中央銀行の歴史でも最高のパフォーマンスと言える。欧米側は、自分たちがプラスのインフレ率を目標に設定しているため、この結果を評価していない。しかし、日銀はあくまでも物価安定を目標にしていたのであり、その基準から言えば輝かしい成果を収めた。
  • 記事では日本の他の問題にも言及されているが、それらは金融政策の長期的結果とは無関係。金融政策は長期的にはインフレ率や名目GDPといった名目変数にのみ影響する。日本は、輸出モデルの限界、人口減少、サービス業や農業での規制といった供給面での問題を抱えているので、実質経済成長率が低くても驚くには当たらない。金融政策を論じる際には、そうした構造問題やら銀行問題やらではなく、あくまでも名目変数について論じるべき。
  • 上記には皮肉が含まれていると思われるかもしれないが、日銀の経験が量的緩和の無効性の実証には一切ならないという点については至って真面目。クルーグマンも日銀の量的緩和を以って同政策の無効性を論じてるが、誤った例を取り上げていることになる。
  • 地価の15年という長期の下落や、デット・オーバーハングの問題を考えると、1〜2%くらいのインフレ率が望ましかったと自分は思うが、日銀はそれを目標に設定しなかった。日銀は物価安定を目標にして、それを手に入れたわけだ。