以前、ロバート・バローが第二次世界大戦時の支出から財政乗数を計算し、クルーグマンの批判を浴びたことを紹介した*1。その後のバローの動きはあまりフォローしていなかったが、ふと気がつくと、先月末のvoxeuで、バローが国防費を元に乗数効果を推計した共著論文を紹介していた。それによると、推計された乗数効果は0.6から0.8の範囲であり、非国防費の乗数効果も似たようなものだろう、とのことである。なお、非国防費の乗数を直接推定することを断念した理由としては、明らかに存在する内生変数の問題を解決する手段が無いため、と述べている。
このバローの記事を意識したかどうかは分からないが、ワシントンブログで、軍事支出は景気刺激にむしろ逆効果、という論考が2つ紹介されていた。
一つは、「多額の国防支出は失業につながる(Massive Defense Spending Leads to Job Loss)」と題されたディーン・ベーカーの小論(11/11エントリ)。それによると、ベーカー率いるCEPRがかつてグローバルインサイト社(旧Data Resources Inc.)に委託して行なった研究では、以下のような結果が出たという。
- GDPの1%(イラク戦争のコストに相当)だけ国防費を継続的に増やした場合、20年後の経済は0.6%小さくなる。
- それは、70万近い職が失われることを意味する*2。
- 職が失われるのは主に建設業と製造業で、それぞれ21万人と9万の職が失われる。
しかし、実際には、グローバルインサイトに依頼したGDP1%の増加という見積もりは甘すぎた、とベーカーは書いている。911以前のCBOの予測では2009年の国防費はGDPの2.4%だったのに対し、現実には5.6%となっている。即ち3.2%の増加なので、それにより失われた職は単純計算で200万人ということになる。
もう一つは、マサチューセッツ大学アマースト校のロバート・ポーリン等の論文(11/12エントリ)。その研究によると、軍事支出の景気刺激効果は非軍事支出に比べるとかなり小さいので、機会コストが発生する。従って、景気刺激のためには非軍事支出を優先させるべき、とのことである。
以下のグラフとテーブルに、結果がまとめられている。