凹型のフィリップス曲線

というNBER論文(原題は「The Concave Phillips Curve」)をコチャラコタ(Narayana R. Kocherlakota、ロチェスター大学)が上げているungated版へのリンクがある著者のページ)。以下はその要旨。

This paper derives the curvature properties of the short-run Phillips curve in a class of canonical models of price-setting frictions. Contrary to conventional thinking, the Phillips curve is asymptotically horizontal for high levels of economic activity and asymptotically vertical for low levels of economic activity. Moreover, it is globally concave for a wide class of models, including many in which average real marginal cost is an unbounded convex function of economic activity. Intuitively, when economic activity is very high (low), substitution effects within the model-implied true price index imply that inflation behaves as if prices are nearly fully sticky (flexible). Using (conventional) measures of inflation that understate the relevant substitution effects may lead to misleading conclusions about the curvature of the Phillips curve, and to corresponding errors in the formulation of monetary policy.
(拙訳)
本稿は、価格設定の摩擦についての標準的なモデル階層における短期のフィリップス曲線の湾曲の特性を導出する。通常の考えとは逆に、フィリップス曲線は高水準の経済活動について漸近的に水平となり、低水準の経済活動について漸近的に垂直となる。また、平均実質限界費用が経済活動の非有界の凸関数である多くのモデルを含め、広範なモデル階層において全域的に凹型となる。直観的には、経済活動が非常に高(低)水準の場合、モデルが含意する真の価格指数における代替効果は、価格がほぼ完全に粘着的(伸縮的)であるかのようにインフレが振る舞うことを含意する。関連する代替効果を過小評価する(通常の)インフレ指標の使用は、フィリップス曲線の湾曲について誤った結論を導き、それによって金融政策策定における過誤を招く可能性がある。

本文によると、経済活動とインフレが高水準の時、消費者は支出をほぼすべて、(より安価な)価格が粘着的な商品に振り向ける。フィリップス曲線は価格が時間的に一定な世界のもののように、即ち水平になる。一方、経済活動とインフレが低水準の時、消費者は支出をほぼすべて、(より安価な)価格が伸縮的な商品に振り向ける。フィリップス曲線は名目硬直性がない世界のもののように、即ち垂直になる。
ただし、これは物価指数が真の場合の話である。実際には、物価指数はラスパイレス指数が使われるので、経済活動とインフレが高水準の時、フィリップス曲線は漸近的に垂直になってしまう。というのは、価格が伸縮的な商品のインフレは、ラスパイレス価格では全般的なインフレとなってしまうからである。真のインフレ率では、消費者は、高価格の伸縮的な商品から低価格の粘着的な商品に代替するという対応を示すので、こうした効果は発生しない。
以下は両フィリップス曲線を比較した論文の図。