というNBER論文が上がっている(昨年12月時点のWP、関連VoxEU記事)。原題は「Optimal Age-based Policies for Pandemics: An Economic Analysis of Covid-19 and Beyond」で、著者はLuiz Brotherhood(バルセロナ大)、Philipp Kircher(コーネル大)、Cezar Santos(米州開発銀)、Michèle Tertilt(マンハイム大)。
以下はその要旨。
This paper investigates the importance of the age composition for pandemic policy design. To do so, it introduces an economic framework with age heterogeneity, individual choice, and incomplete information, emphasizing the value of testing. Calibrating the model to the US Covid-19 pandemic reveals an 80% reduction in death toll due to voluntary actions and the lockdown implemented in the US. The optimal lockdown, however, is more stringent than what was implemented in the US. Moreover, the social planner follows an asymmetric approach by locking down the young relatively more than the old. We underscore the importance of testing, showing its impact on reduced deaths, lower economic costs and laxer lockdown. We use the framework to provide systematic insights into pandemics caused by different viruses (among others the Spanish flu), and underline the influence of economic conditions on optimal policies.
(拙訳)
本稿は、疫病対策の設計における年齢構成の重要性を調べた。そのために、年齢による不均一性、個人の選択、および不完全情報を備えた経済的枠組みを導入し、検査の重要性を強調するようにした。米国のコロナ禍にモデルをカリブレートしたところ、米国で導入された自発的な行動とロックダウンにより死者が80%減少したことが明らかになった。しかし、最適なロックダウンは、米国で導入されたものよりも厳格なものであった。また、高齢者よりも若年層をもっとロックダウンするという非対称的な手段を社会設計者は採る結果になった。我々は検査の重要性を明らかにし、死者の減少、経済的費用の低下、より緩やかなロックダウンへのその影響を示した。我々はこの枠組みを用いて、別のウイルス(特にスペイン風邪)が引き起こした疫病についての体系的な洞察を提供し、最適政策に経済状況が与える影響を強調する。
以下はVoxEU記事で示された図。
最適政策では若者のロックダウンを厳しくする必要があるという左図は直観に反する結果だが、ロックダウンが無い場合、若者は自らのリスクが低いことで感染拡大防止策を無視する傾向があるため、高齢者に過度のリスクを負わせることになる、と記事では説明している。最適政策では右図のように両年齢層について死者数がかなり抑えられたはずとの由。実際よりもさらに若者の犠牲が必要だった、という結果なわけで、一部界隈の強い反発を招きそうな話ではある。
VoxEU記事の次の図では若者が家にいなければならない時間の増分を示している。感染性が高いと社会設計者はその時間を増やすことになるが、その一方で、致死性が高いとロックダウンが無くても自主的に警戒するため、濃い青色の棒グラフが高くなる。その結果、薄い青色で示されている、追加的に実施しなければならないロックダウンによる時間数が、致死性が低い場合よりも高い場合の方が少なくなっている。
WP本文によると、スペイン風邪ではコロナ禍よりも最適政策のロックダウンが緩やかなものになったとの由。一つには、当時は高齢者の割合が少なかったのと、もう一つには、スペイン風邪では若者の死亡率が高かったので、自主的な警戒度が高く、介入の必要度が少なかったため、とのことである。一方、所得が低いことや、当時テレワークが存在しなかったことは、人々が自発的に警戒する動きを弱め、介入の必要度を上げる方向に働いたとのこと。