昨日に続き、Econlogのデビッド・ヘンダーソンのエントリをもう一つ紹介する。
マドフのポンツィ詐欺による損失をIRS(内国歳入庁)がキャピタル・ロスではなく事故ないし盗みによる損失として認める方針を示したのに対し、ヘンダーソンの友人が、「では最大のポンツィ・スキームである社会保障のために払う12.4%を連邦所得税から控除してもらえるのかね?」と皮肉ったという。
ヘンダーソンの紹介した記事によると、キャピタル・ロスの上限はキャピタル・ゲインと相殺した上で年3000ドルだが、事故ないし盗みによる損失ならば通常は所得の最大10%10%を超過する分が控除されるとのこと*1。さらに記事では、このマドフ詐欺の場合は10%の上限下限も適用されないのではないか、という会計士の意見も紹介されている*2。
ヘンダーソンは、自著からサミュエルソンの以下の言葉を紹介している。
MIT economist Paul Samuelson added some of the intellectual backing for these policies. "The beauty about social insurance is that it is actuarially [italics Samuelson's] unsound." Samuelson's point was that if real incomes were growing quickly, each generation could get more out of Social Security than it paid in. While its critics attacked Social Security as a Ponzi scheme, Samuelson beat them to the punch in 1967 by blessing it as one. "A growing nation," wrote Samuelson, "is the greatest Ponzi game ever contrived."
(Samuelson quote is from Newsweek, February 13, 1967.)(拙訳)MITの経済学者ポール・サミュエルソンは、これらの政策に知的な裏付けを与えた。「社会保障の素晴らしいところは、それが保険数理的に不健全な点にある。」サミュエルソンの主張のポイントは、実収入の伸びが高ければ、各世代が支払ったよりも多く受け取れる点にある。批判者が社会保障をポンツィ・スキームだとして攻撃したのに対し、サミュエルソンは1967年にそれを良いことだとして彼らの出鼻を挫いた。「成長する国家は」とサミュエルソンは書いた――「これまで考えられた最も偉大なポンツィ・ゲームだ。」
ヘンダーソン自身は社会保障に批判的で、個人がやれば刑務所行きになることを国家がやっており、しかも国家が強制力をもって実施している、と書いている。
コメント欄では社会保障がポンツィ・スキームか否かについて論争が交わされているが、内容的には、日本のネット界での年金論争とあまり変わらない(例:小飼弾氏のこのエントリのコメント欄)。日米問わず、年金制度を詐欺になぞらえる批判は根強いようだ。
*1:追記:記事原文で「Personal casualty losses and personal theft losses are also subject to limits of sometimes 10 percent of a person's income.」となっているので、当初10%を上限として記述したが、IRSの説明やこの日本語による解説を読むと、10%というのはむしろ(100ドルを差し引いた上での)下限(=その超過分のみ控除対象となる)のようなので、そのように記述を修正した。
*2:追記:ぐぐってみたところ、ここでその件について詳細に論じているスレッドを見つけた。なお、このスレの投稿主はAlanとなっているが、記事で紹介されている会計士の名前はAlan Dlugashである。ひょっとして同一人物かもしれない。ちなみに問題の条文§165はこれで、今回の件はこのうちの(c)-(3)ではなく(c)-(2)に相当するので、(h)の100ドル&10%ルールが適用されないのではないか、ということらしい。