昨日のエントリは思ったより反響が大きかった*1。特にmojimoji氏からはブログとブコメで反論を頂いたので、氏の主要論点を3つ取り上げ、それに関する小生の考えを少し整理してみる。
1)枝野案は与謝野案よりひどいか?
これに対する小生の答えはYESである。Baatarism氏のエントリの以下の文章でその話は尽きていると思う。
与謝野氏の利上げ論は日銀が主張していた「金利正常化」ですから、普通に中央銀行が政策金利を上げるだけでしょう。これは間違っているとはいえ、資本主義・市場経済の範囲内の政策と言えるでしょう。
しかし、枝野氏の発言では「貸出金利は上げずに、預金金利だけ上げるべきだ。」となってますので、政府が直接金利を規制する、社会主義・計画経済的な手法だと言えるでしょう。
自民党利上げ派と民主党利上げ派の違い - Baatarismの溜息通信
Baatarism氏の言うとおり、与謝野案はマクロ経済政策の範囲内だが、枝野案は制度の変更――もっとはっきり言うと制度を歪める変更――を伴っている。その歪みが、思わぬ副作用(信用創造機能の阻害、オーバーレンディング)をもたらすだろう、というのがBaatarism氏や小生の見解である。
ちなみにmojimoji氏は、最初のエントリで、いみじくも
この業界には「ピンチになったら公的資金」という暗黙の了解に起因するモラル・ハザードがあるような市場ですし。だから、レントは、あると言えばあるでしょう。
枝野幸男って、そんなに酷いこと言ってるか? - モジモジ君のブログ。みたいな。
と書いているが、そのレントを吐き出させようとすると、まさにそのモラル・ハザードが顕在化する皮肉な結果になるのではないか、というのが昨日エントリの主旨である。
2)行政指導だから法律による規制に比べ問題は少ない?
でも悪名高いこれも行政指導だったのだが…。
行政指導は法律と違って関係者で落としどころを探るからとんでも無い結果にはならないはず、というのは希望的観測に過ぎないように思う。
3)逆鞘が生じるというのは話が極端?
これについては、そもそもレントがあるのか、という問題がある。mojimoji氏は上で引用した文章で「モラル・ハザードがある」→「だから、レントもある」という主張を展開しているが、それは論理としては弱いと思う。
稲葉氏エントリの田中氏コメントでは、むしろレントは無い、という分析が紹介されている。そこでぐぐってみると、一昨年の経済財政白書で貸出利鞘の推移グラフが示されている。これを見ると、信用コストを考慮した利鞘がプラスに転じたのは2002年以降のことで、それまでは逆鞘だったようだ。
また、このレポートによると、現在は預金残高が貸出残高を約70兆円上回っており(図10)、それが利鞘を抑制しているという。
そうしてみると、レントが十分にあり、多少吐き出させても逆鞘になることはない、という主張に十分に説得力があるとは言い難いように思われる。