ジュリエット・ショアが語る週四日制の恩恵

というIMFポッドキャスト(原題は「Juliet Schor on the Benefits of a 4-Day Week」)をMostly Economicsが紹介している。以下はその要旨。

Productivity has been the driving force behind the five- sometimes six-day workweek, but there is a growing body of evidence that shows a shorter week is equally, if not more productive in many respects. Juliet Schor is a champion of the four-day week and led the charge in the early 90s with her book The Overworked American, which studies the pitfalls of choosing money over time. Schor is an economist and sociologist at Boston College and heads the research for global trials of companies instituting four-day workweeks. Journalist Rhoda Metcalfe spoke with Juliet Schor about her four-day week mission, as part of our special Women in Economics series.
(拙訳)
生産性は、週五日、時には週六日の労働時間を推し進める力となってきたが、週の労働時間がより短いと、多くの点で同じくらい、あるいはひょっとするとそれ以上に生産的、という実証結果が積み重なりつつある。ジュリエット・ショアは週四日制の推進派であり、時間よりお金を選ぶことの陥穽を研究した90年代初めの著書「働きすぎのアメリカ人*1」で追求の先頭に立った。ショアはボストン大の経済学者ならびに社会学者であり、週四日制を導入する世界の企業の試みの研究を率いている。ジャーナリストのローダ・メトカーフが、「経済学における女性」という我々の特集の一環として、ジュリエット・ショアの週四日制のミッションについて彼女に訊く。

トランスクリプトによると、ショアのプロジェクトにより、アイルランド、米加英豪、南ア、ブラジルなど200社以上で週四日制が導入されたという。そうした企業では週四日制実現のためには働き方を大きく変えなくてはならないのではないか、という質問に対しショアは以下のように答えている。

Yes and no. So many companies do it that way. And that you might think of as the classic, how do you fit 5 days work into four days. And many companies do that. They change their meetings culture, they create focus time. They figure out how we can save time and be just as efficient. There's a lot of, let's say, less than optimal time use particularly in white collar. But that's not the only way for businesses to make this work. They can also benefit by reducing burnout, reducing resignations, increasing applicants to unfilled positions and so forth.
(拙訳)
その答えはイエスでもありノーでもあります。非常に多くの企業がそのような形で導入しています。5日分の仕事をどのように4日に当てはめるか、という古典的な方法と言っても良いかと思います。多くの企業がそうしているわけです。会議の文化を変えたり、業務に集中する時間を設けたりしています。時間を節約して効率性を維持する方法を見い出したわけです。言うなれば最適でない時間の使い方が、特にホワイトカラーでは多いのです。しかしそれが企業が週四日制を機能させる唯一の方法というわけではありません。燃え尽き症候群を減らし、退職を減らし、欠員に対する応募者を増やす、などの方法で恩恵を得ることもできるのです。

ショアはこの後、「This isn't just game-changing. It's life-changing.(これはゲームチェンジャーであるだけでなくライフチェンジャーだ)」という導入企業の従業員の言葉を引いたりして、週四日制のメリットを力説している。
また、経済学的な裏付けについては以下のように説明している。

I started looking at working hours... Actually, my very first job, I was in a small college in Western Massachusetts and I got interested in this topic, the question of whether or not there was a bias in capitalist economies to take productivity growth in the form of more production rather than more leisure.
And so I started thinking about that. Well, what is the interest of an employer in how productivity growth is used, more wages versus more time off? Does the employer care? And I developed a little model showing that actually the employer prefers longer hours. In the standard economic models of the time, there was no bias and the hours of work were driven by worker preferences. So workers, employees, whatever, had preferences for time and money, and that's what drove the time-money trade-off. And I said, "No, that's wrong. There's actually a structural bias here, so we get too much money and not enough time."
And so that's been a real through line in my work. In 2010, I published a book called Plenitude: The New Economics of True Wealth, which is arguing, let's think not just about wealth in goods and services or money, financial wealth, but time wealth. And then I did a lot of work on the relationship between working hours and carbon emissions and show that high emissions go along with long hours of work.
(拙訳)
労働時間について研究し始めたのは、実は西マサチューセッツの小さな大学で最初の職に就いた時です。そこで私はこのテーマに興味を持ちました。資本主義経済では、生産性成長を余暇の増加ではなく生産の増加という形にする偏りが存在するのではないか、という問いです。
そこでそれについて考え始めました。生産性成長が賃金上昇と余暇の増加のどちらに使われるかについて、雇用者の利益はどこにあるのか? 雇用者はそれを気に掛けるだろうか? 私は小さなモデルを構築し、確かに雇用者は長時間労働を選好することを示しました。時間の標準的な経済モデルでは偏りは存在せず、労働時間は労働者の嗜好によって決まります。即ち労働者ないし被雇用者といった立場の人は時間とお金に対し選好を持ち、それが時間とお金のトレードオフを決めることになります。それについて私は「いや、それは間違っている。ここには構造的な偏りが確かに存在し、お金が多過ぎて時間が十分でない状況が生じているのだ」と言いました。
それが私の研究の基本線になっています。2010年に私は「プレニテュード――新しい〈豊かさ〉の経済学*2」という本を出し、財とサービスやお金、金融資産という形の資産だけではなく、時間資産を考えよう、と論じました。それから労働時間と炭素排出の関係について大いに研究し、排出量の多さが労働時間の長さに付随することを示したのです。

ショアはまた、生産性が高かった米国が、かつては週六日制、週五日制、および週40時間労働を最初に導入し、世界における労働時間短縮を先導していたのに、その後は労働時間があまり減らず、欧州が戦後米国に追いつき追い越してしまったことを指摘している。その背景には、米国における労働運動の弱体化や、金融面でのディスインセンティブが非常に強力に働くようになったことがあるが、最大の理由は医療費が企業負担になっていることにある、とのことである。従って、医療費は企業負担から外すべし、とショアは主張する。
ショアはさらに、週四日制の考えは以前にもあったがあまり注目を集めず、「働きすぎのアメリカ人」がベストセラーになった時に試みた企業も上手く行かなった、と述べている。それを変えたのがコロナ禍によるリモートワークで、ショアはそれが週四日制への動きを「ターボチャージ」した、と表現している。そして、AIが人の労働の3/4をこなせるようになった今、労働時間短縮は明白な進むべき方向だ、と主張する。

経済が生産性上昇を積み重ねても労働時間が減ってこなかったことについては、なぜ資本主義は無意味な職を創出するのか - himaginary’s diaryケインズの労働時間の予測はなぜ外れたのか? - himaginary’s diaryで紹介した議論のように、ケインズの「わが孫たちの経済的可能性」の予言がなぜ実現しなかったか、というテーマで経済学者が考察してきたところであり、また、ミヒャエル・エンデの「モモ (岩波少年文庫(127))」などの文学作品のテーマになってきたところであるが、経済学者が実際に労働時間を減らす取り組みを推進している、というのは注目すべき動きのように思われる。