GDPと気温:各国の反応の不均一性に関する実証結果

というNBER論文が上がっている(H/T タイラー・コーエンungated版)。原題は「GDP and Temperature: Evidence on Cross-Country Response Heterogeneity」で、著者はKimberly A. Berg(マイアミ大)、Chadwick C. Curtis(リッチモンド大)、Nelson Mark(ノートルダム大)。
以下はその要旨。

We use local projections to estimate the cross-country distribution of real GDP per capita growth impulse responses to global and idiosyncratic temperature shocks. Negative growth responses to global temperature at longer horizons are found for all Group of Seven countries while positive responses are found for seven of the nine poorest countries. Global temperature shocks have negative effects on growth for around half of the countries and seemingly anomalous positive effects for the other half. After controlling for latitude and average temperature, positive growth responses to global temperature shocks are more likely for countries that are poorer, have experienced slower growth, are less educated (lower high school attainment), less open to trade, and more authoritarian.
(拙訳)
我々は、ローカル予測*1を用いて、世界および各国固有の気温ショックに対する一人当たり実質GDP成長率のインパルス応答の国際的な分布を推計した。長期の世界の気温ショックに対してG7諸国はすべてマイナスの成長率の応答を示したが*2、最貧国9か国のうち7か国はプラスの応答を示した*3。世界の気温ショックはおよそ半数の国において成長にマイナスの影響をもたらし、残りの半数において異常とも思われるプラスの影響をもたらした*4。緯度と平均気温についてコントロールした後は、世界の気温ショックに対するプラス成長応答は、より貧しく、より低成長を経験し、より教育水準が低く(高卒の割合がより少なく)、より貿易開放度が低く、より専制的な国で可能性が高かった。

*1:cf. ローカル予測の分散分解に関するメモ - himaginary’s diary

*2:2021年時点のWPでは、カナダは例外で6か国がマイナスの応答を示したとしている。現行のungated版でもカナダのみ非有意としている。MRブログのコメント欄でも、農業や鉱業が可能な地域が広がるのでカナダにとって温暖化はプラスではないか、というコメントが最初に付き、それに対して活発な議論が交わされている。

*3:2021年時点のWPでは4か国。

*4:2021年時点のWPでは成長率以外に水準の影響も推計していたが、現行版では無くなっている。また、2021年時点のWPでは、世界と各国固有に分解する前の、国の気温ショック(country temperature shock)についての記述を前面に打ち出し、それに対するプラスとマイナスの国を示した表(表5)を掲げ、要旨でもその国数を記述していたが、それも無くなっている(同時に、世界と各国固有の気温ショックそれぞれに対するプラスとマイナスの国を示した表(表6)も無くなっている)。ちなみに現行版の本文では、各国固有の気温ショックは世界の気温ショックほど富裕国において明確な傾向が見られない、と書かれており、その例として日本が期間5年でプラスになっていることを挙げている。