20年後のマイケル・ウッドフォードの「利子と物価」

という論文をMostly Economicsが紹介している。原題は「Michael Woodford's Interest and Prices After Twenty Years」で、著者はPierrick Clerc(フランス銀行)、Mauro Boianovsky(ブラジリア大学)。
以下はその要旨。

The present paper reflects about Michael Woodford’s 2003 Interest & Prices, 20 years after its publication. The paper stresses its role (i) in the transition from a ‘neo-monetarist’ towards a ‘neo-Wicksellian’ framework within the New Keynesian - DSGE paradigm; (ii) in the widespread use of the concept of a ‘natural rate of interest’, especially by economists working in central banks; and (iii) in providing a general method for deriving a ‘utility-based’ welfare criteria consistent with the models used to determine the optimal monetary policy. Importantly, the paper points out that Woodford actually pursued a different, and much less recognized, objective: promoting a new, and ‘rule-based’, approach to inflation targeting. The paper finally discusses some aspects of his concern with financial stability after the 2008 crisis.
(拙訳)
本稿は、マイケル・ウッドフォードの2003年の「利子と物価*1」について、発刊から20年後に検討する。本稿は、(i)ニューケインジアン=DSGEパラダイム内での「ネオマネタリスト」から「ネオヴィクセリアン」への枠組みの移行、(ii)特に中銀の経済学者による「自然利子率」の概念の広範な利用、(iii)最適金融政策を決定する上で使われるモデルと整合的な「効用ベース」の厚生基準の導出についての一般的な手法の提供、における同著の役割を強調する。重要なのは、ウッドフォードは実際にはあまり認識されることのない異なる目的を追究していたことを本稿が指摘している点である。即ち、インフレ目標の新たな「ルールベース」のアプローチの促進である。本稿は最後に、2008年の危機後の金融の安定性についての彼の懸念の幾つかの側面を論じる。

本文によると、ウッドフォードの最適インフレ目標ルールは以下の式で表されるとの由。
  πt = -θ-1(xt - xt-1)
ここでπtはt期におけるインフレ率, xtはt期における産出ギャップ、θは差別化された財の間の代替の弾力性である。このルールが中銀で採用されなかった理由の候補として論文では

  1. 中銀がNK-DSGEパラダイムに属さないバックワードルッキングなモデルを用いていること
  2. 経済がショックを受けた時にもルールが頑健に最適であることを中銀が信じるのが困難であったこと
  3. ラース・スヴェンソン*2が指摘するように、より現実的なモデルではルールが非現実的なほど複雑になること

を挙げている。

論文ではまた、同著は完全な金融市場を仮定したことで金融機関が欠落しており、そのことが金融危機の分析にハンディキャップになったこと、ウッドフォードも後に一連の論文でその点をモデルに付加したことが指摘されている。