ボルテージ効果の簡単な合理的期待モデル

というNBER論文が上がっているungated版)。原題は「A Simple Rational Expectations Model of the Voltage Effect」で、著者はOmar Al-Ubaydli(ジョージメイソン大)、Chien-Yu Lai(シカゴ大)、John A. List(同)。
以下はその要旨。

The “voltage effect” is defined as the tendency for a program’s efficacy to change when it is scaled up, which in most cases results in the absolute size of a program’s treatment effects to diminish when the program is scaled. Understanding the scaling problem and taking steps to diminish voltage drops are important because if left unaddressed, the scaling problem can weaken the public’s faith in science, and it can lead to a misallocation of public resources. There exists a growing literature illustrating the prevalence of the scaling problem, explaining its causes, and proposing countermeasures. This paper adds to the literature by providing a simple model of the scaling problem that is consistent with rational expectations by the key stakeholders. Our model highlights that asymmetric information is a key contributor to the voltage effect.
(拙訳)
「ボルテージ効果」は、スケールアップするとプログラムの有効性が変化する傾向として定義される。大抵の場合、プログラムの処置効果の絶対的な結果値はスケールアップすると減少する。スケーリング問題を理解し、ボルテージの落ち込みを減らすための手立てを取ることは重要である。というのは、対処しないでおくと、スケーリング問題は一般の人々の科学への信認を弱め、公的資源の割り当てミスにつながりかねないからである。スケーリング問題の普遍性を明らかにし、その原因を説明し、解決策を提示した研究は積み上がっている。本稿は、主要なステークホルダーの合理的期待と整合的な、スケーリング問題の単純なモデルを提示することによって、この分野に貢献する。我々のモデルは、主に非対称的な情報がボルテージ効果に寄与していることを明らかにする。


論文の著者のうちAl-UbaydliとListが以前別の共著者と書いた論文WP)のモデルでは、スケーリング問題のメカニズムとして以下の4つを取り込んでいたとの由。

  1. スケールアップに伴う管理運営の質の低下
  2. 処置を受けた人から受けなかった人へのマイナスの波及効果の発生
  3. 小規模での実験の参加者が一般の参加者の代表になっていないこと
    • 科学者は小規模実験において一般の人々よりも大きな処置効果を示す人々を選ぶインセンティブを持つ。なぜならば:
      • 募集が安価
      • 実験からの脱落リスクが低い
      • 検定力が高くなるため観測数が少なくて済む
      • プラスの効果を好む科学界において出版の可能性が高くなる
      • 政府が小規模実験で有効だったプログラムを大規模に実施する可能性が高い場合、それによって科学者にコンサルティング料と名声が転がり込む
  4. お蔵入り効果(出版バイアス)

今回の論文では3番目のメカニズムに焦点を当て、合理的期待を織り込んだとの由。科学者が長期的な評判を十分に気にしていればこのスケーリング問題は生じないが、ある程度近視眼的だと私的情報の利用に走るとのことである。