バングラデシュのマスク研究から何を結論すべきか?・再訪

以前バングラデシュでのマスク着用に関するRCTについて、Ben Rechtによる批判的な検証を取り上げたことがあった。その後、研究者がデータを公開したとのことで、Rechtが公開自体は賞賛しつつも改めてそのデータを批判的に検証している(H/T タイラー・コーエン)。以下はその概要。

  • 公開されたデータは:
    • 対照群(nC):300村の163,861人、陽性者数(iC)=1,106人
    • 処置群(nT):300村の178,322人、陽性者数(iT)=1,086人
  • この結果には、以下のような問題点がある:
    • 34万人以上を8週間検証して差はわずか20人。
    • マスクでは盲検は不可能なので、当然ながら盲検ではない。
    • 処置群では、マスク促進以外に、社会的距離などの他の措置に関する教育も行われた。
    • 研究者による検査に同意して研究対象となった人の比率は、処置群が95%、対照群が92%。この差だけで観測された差を拭い去ってしまう。
    • 血清反応による陽性は、検証以前に感染していた可能性があるため、コロナの指標としては粗い。
  • 生物統計学では、実際の症例数ではなく、相対リスク減少の指標である有効性を見ることが多いが、それは効果を誇張する。
    • 同指標はRR=(iT/nT)/(iC/nC)として計算されるが、マスク研究ではRR=0.9で、感染のリスクの改善率は1.1xに過ぎない。ちなみにmRNAワクチンのRRは0.05で、改善率は20xとなる。
    • ワクチンの学界では有効性EFF=1−RRという指標も使われる。RR=0.9ならばEFF=10%である。0%から20%の有効性は無きに等しいとされ、20%の有効性のワクチンが承認されることはない。また、有効性は非線形性という点でも難点がある。有効性の10%と20%の差は非常に小さいが、85%と95%ではリスク減少にして7倍と20倍という大きな差がある。
  • 研究ではサージカルマスクと布マスクの違いも見ているが、そこでは有効性の馬鹿馬鹿しさがさらに明らかになる。サージカルマスクのデータは以下のようになっている。
    • 対照群(nC):190村の103,247人、陽性者数(iC)=774人
    • 処置群(nT):190村の113,082人、陽性者数(iT)=756人
      • 差は18人で、有効性は11%と低い。
  • 一方、布マスクのデータは以下のようになっている。
    • 対照群(nC):96村の53,691人、陽性者数(iC)=332人
    • 処置群(nT):96村の57,415人、陽性者数(iT)=330人
      • 10万人超の研究で差は僅か2人なので、差の数字に意味はないが、有効性を計算すると7%になる。
  • この場合、7%も11%も「効果なし」として扱われるべきで、その差に大した意味はない。また、このような結果についてはp値のような統計量を計算することにも意味はない。