少し前に財政支出の拡大余地を理論面から研究したNBER論文を3本紹介したことがあったが、財政拡大余地が株式市場を通じて個別企業に与える影響を実証面から研究した表題のドイツ連銀の論文をMostly Economicsが先月末に紹介していた。原題は「On the importance of fiscal space: Evidence from short sellers during the COVID-19 pandemic」で、著者はStefan Greppmair(ドイツ連銀)、Stephan Jank(同)、Esad Smajlbegovic(エラスムス・ロッテルダム大)。
以下はその要旨。
Our study suggests that short sellers anticipated the importance of fiscal space. During the stock market collapse in February 2020, we see a clear rise in short positions in companies with low liquidity headquartered in countries with a poor credit rating. In countries with a good credit rating, we do not observe this change in short sellers’ strategy. This trading strategy suggests that short sellers incorporate the limited ability of fiscally constrained governments to support firms with liquidity problems into their decisions. We find that they shifted their strategy ahead of the market collapse, anticipating the importance of fiscal space. Their strategy resulted in high abnormal returns during the market downturn period of the pandemic.
(拙訳)
我々の研究は、空売り投資家は財政出動余地の重要性を予期していたことを示す。2020年2月の株式市場の暴落の際に、信用格付けが低い国に本店のある手元流動性の低い企業に対する空売りポジションが明確に上昇した。信用格付けが高い国では、空売り戦略のこのような変化は見られなかった。この取引戦略は、流動性に問題のある企業を財政的に制約のある政府が支援する能力が限られていることを空売り投資家が意思決定に織り込んでいたことを示唆する。我々は、彼らが財政拡大余地が重要になることを見越して市場暴落前に戦略を変えていたことを見い出した。彼らの戦略は、パンデミックによる市場下落の期間に大きなアブノーマルリターンをもたらした。
Mostly Economicsは、研究の対象サンプルは13のEU加盟国と英国とノルウェーだが、EU加盟国は独自通貨を持っていないので財政拡大余地が無いことは今や周知の事実であり、MMT派はサンプル国を改善すべきと言うだろう、とコメントしている。また、英国の公開空売りポジションが大きくノルウェーで低いのは、ロンドンが金融センターであるためでは、とも指摘している。