中央銀行は生産性成長率を目標とすべきか?

労働党が、イングランド銀行は3%の労働生産性成長率を目標とすべき、という案を出したことを受けて、シカゴ大のIGMフォーラムがパネルの経済学者にアンケートを取っているMostly Economics経由Croaking Cassandraブログ経由)。具体的には、以下の文章への賛否を問うている。

Central banks cannot significantly increase productivity growth over a ten year horizon, except perhaps by promoting macroeconomic stability.
(拙訳)
中央銀行は10年の期間において生産性成長を有意に上昇させることができない。例外はおそらくマクロ経済の安定を促すこと。

回答は「意見無し(No Opinion)」と「分からない(Uncertain)」を除けば、「強く同意(Strongly Agree)」「同意(Agree)」「不同意(Disagree)」「強く不同意(Strongly Disagree)」の4段階で返すことになっており、同時に回答への自信について10段階の数字を添えることになっている。このアンケートにおいては、43人中、無回答が7人、意見無しが3人(7%)、分からないが2人(5%)、強く同意が12人(28%)、同意が19人(44%)、不同意と強く不同意はいずれもゼロだった。自信でウエイト付けした数字は、強く同意が46%、同意が53%、分からないが1%となっている。
回答のうち、コメントがあったものを拙訳でまとめると以下の通り。

●ダロン・アセモグル(Daron Acemoglu)[同意、7]
生産性成長のため金融政策に過度に依存することには大きな問題がある。
●Joseph Altonji[同意、6]
背景情報参照
●マーカス・ブルナーメイヤー(Markus Brunnermeier)[同意、7]
安定した環境を作れば研究開発投資が増え、それによって生産性成長が促される。
●ダレル・ダフィー(Darrell Duffie)[強く同意、8]
中央銀行家は魔術師ではない。私ならば、「例外はおそらくマクロ経済の安定を促すこと」 という文言を、「ただしマクロ経済の安定を促すことを通じて生産性成長に幾ばくかの影響を与えられる」に置き換える。
●オースタン・グールズビー(Austan Goolsbee)[強く同意、8]
彼らは生産成長、気候変動、もしくはカブスの勝利に目標率を設けるべきではない。いずれも重要だが、どれも彼らのコントロール下にはない。
●ロバート・ホール(Robert Hall)[同意、8]
生産性成長率のコントロール中央銀行に要請することほど悪いアイディアを思い付くのは難しい。推進者はクヌート王のこと*1を忘れている。
●Kenneth Judd[同意、8]
生産性は人的、物的、および知的資本の蓄積に依存する。中央銀行はそうした投資に影響する手段を持ち合わせていない。
●アニール・カシャップ(Anil Kashyap)[強く同意、10]
基礎的な実証結果を知悉している者で、それが可能だと考えるものはいない。なお、情報公開をしておくと、私はイングランド銀行でパートタイムの職務に就いているが、これは私自身の考えである。
●Pete Klenow[強く同意、10]
彼らにそれができたら良かったのに、とは思うが、残念ながら否である。背景情報参照
●Larry Samuelson[同意、10]
生産性成長は主として技術的な現象であり、金融政策は二次的な役割を果たしているに過ぎない。
●ホセ・シャインクマン(José Scheinkman)[同意、7]
同意だが、「きちんと機能する金融システムを促すこと」も入れたい。
●Robert Shimer[同意、3]
労働生産性」が「全要素生産性」だったらもっと自信を持つのだが。
リチャード・セイラー(Richard Thaler)[強く同意、5]
素晴らしいアイディアだ! ひょっとしたらFRBは私の生産性も上げられるかもしれない。書くことが速くて上手になりたいものだ。また、ゴルフでボールを遠くに飛ばせるようにもなりたい。