逆イールドは怖くない?

同じWSJ記事に反応して、ジャレッド・バーンスタインStephen Williamsonがともに、景気後退の前触れとされるイールドカーブの平坦化ないし逆イールドカーブは、今回は心配するに及ばない、と書いている。しかしそのロジックはかなり違う。
バーンスタインは、長期金利を将来の短期金利の平均と期間プレミアムに分解した場合、将来の景気後退と関係するのは前者であるため、期間プレミアムを除いて考えるべきである、という。すると、FRBの研究が示すところによれば、現在のイールドカーブから景気後退シグナルは消える、とのことである(下図)。

一方Williamsonは、イールドカーブの平坦化が長短どちらの動きで生じたかに着目している。過去の例を見ると、景気後退の前触れとなったのは短期金利が上がって長期に近付いた場合であり、長期金利が下がって短期に近付いた場合ではない、と彼は指摘する。現在については、10年物と2年物の金利は近付いているが、2年物と3ヶ月物の金利はまだ離れているため、心配には及ばない、と彼は言う。問題が生じるのは、イールドカーブの長期側ではなく短期側においてであり、金融政策で短期金利を上げ過ぎた場合だから、とのことである。
Williamsonはまた、景気後退に関する別の金利指標として、3ヶ月物の実質金利を挙げている。同金利は、2001年と2008-9年の景気後退の前には、谷から山に4%程度動いていたが、現在はまだ2%程度しか動いていないため、その点からも心配に及ばない、と彼は言う。


両者は逆イールドの政策的意味合いについても述べているが、金利引き上げに反対する根拠となるか、という点についてはともに否定的である。しかしそのロジックはやはりかなり違う。
バーンスタインは、景気後退をもたらすのは逆イールドそのものではなく、それが示す経済の過熱であり、逆イールドを恐れて金利を引き上げなければ、経済の過熱を却って悪化させ、最終的には逆イールドと景気後退をむしろ大きなものとしてしまう、というハチウスの見解に同意を示している。バーンスタイン自身は経済の過熱の恐れは少ないと見ているものの、この論理からすると逆イールドによってFRB金利引き上げを思いとどまることはないだろう、と彼は言う。
一方、Williamsonは、そもそもFRB金利の引き上げは間違ったインフレ理論に基づいている、と述べている。彼の言うFRBのインフレ理論とは、労働市場の引き締まりは必然的にインフレ高騰を招くので、失業率を上げることによってインフレを目標に抑える、というものである。それに対しWilliamsonは、次の3点を指摘している。曰く、(i)フィリップス曲線は理論ではない、(ii)中銀は失業率をコントロールしてインフレをコントロールするのではない、(iii)過熱した経済などというものは存在しない。こうしたFRB批判は、Williamsonのニューマネタリストとしての面目躍如、というところかと思われる。